2024年12月7日(土)

食の「危険」情報の真実

2023年10月13日

 東京電力福島第1原発の処理水を8月に海洋放出したことにともない、中国政府は日本の水産物輸入を全面的に停止した。そして、処理水を「核汚染水」と呼び、日本政府を批判するキャンペーンを国際社会で展開している。なんとも腹立たしいかぎりだが、中国憎しに便乗してか、一部の週刊誌では「中国産食品こそ危険だ」とする主張を展開している。

(Meri Hariantisasi/AlexRaths/gettyimages)

 ただ、処理水が科学的根拠から安全とされるように、日本に輸入される中国産食品の多くは科学的根拠に基づき安全だ。中国と同じ穴のムジナにならず、冷静な対応が求められる。

厳格な日本の検査と違反の多くない中国

 週刊ポスト(9月15・22日号)は、「日本の食卓を汚染する中国猛毒水産物」との見出しを掲げ、中国からの輸入食品の危険をあおった記事を掲載。記事では、「2022年度は191件の中国産輸入水産物が食品衛生法に違反」「今年度も4月から8月末までに64件。そのなかにはイカやエビ、貝類などが報告された」として違反件数・事例を細かく報じ、中国から日本に多くの危険な食品が入ってきていると強調していた。

 記事は、食品表示アドバイザーの食品問題評論家と、参議院議員(日本共産党)元政策秘書でフリーライターの2人が代わる代わるコメントする形で構成されていた。食品の安全性についての記事なのだから、科学的知見に基づき客観的かつ中立なリスク評価機関である内閣府食品安全委員会や、食の安全の専門家にも話を聞くべきかと思うが、そこはおいておこう。

 まず、輸入される中国産食品の安全性については、科学的データで考える必要がある。「食品衛生法違反が191件」と聞くと、ものすごく違反が多いような印象を受けるが、厚生労働省の輸入食品監視統計(2022年)によると、輸入件数トップの中国から輸入される食品は約88万件あり、このうち8万3014件を検査し、違反は195件で、違反率(違反件数÷検査件数)は0.23%だ。

 輸入件数2位の米国は違反率が0.81%、3位のフランスは0.08%、4位のタイは0.43%、5位のイタリアは0.27%で、中国からの輸入食品が飛びぬけて違反が多いわけではないことが分かる。違反の内容は、微生物やカビ、食品添加物、残留農薬の規制値を多少超える程度の違反であり、健康被害が起こるような違反はなかった。

 食品衛生法違反は国産食品にもある。市販の食品を検査した東京都の調査では、輸入食品と国産食品に分けて違反件数を公表しているが、違反率に大きな差はない。こうしたデータを見る限り、輸入食品の違反だけを取り上げて「危険」とあおるのは、消費者をミスリードしているといえないだろうか。


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