2024年12月23日(月)

近現代史ブックレビュー

2023年12月19日

 近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載「近現代史ブックレビュー」はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。
軍事史学
特集 青年将校運動

(編)軍事史学会 錦正社 2200円(税込)

 軍事史の専門誌『軍事史学』の青年将校運動の特集である。間違いの多い昭和軍人ものが雑誌や新書に溢れている中、読者にはこちらの方がはるかに有益となろう。

 ここでは福家崇洋の「大岸頼好と国家改造運動」を取り上げることにしたい。

 大岸は高知県の生まれ、中学校・広島陸軍幼年学校などを経て陸軍士官学校卒業。少尉に任官したが、兵隊の家庭の厳しい事情を知り、思想・社会問題の方向に走った。しかし、病気療養中に「マルクス変じて本居宣長になった」と言って笑っていたという思想的変化が起きる。1925年、「宇垣軍縮」により大岸の第52連隊は廃止され、軍縮と思想・社会問題が深刻化する中、後の陸軍青年将校運動の中心人物・末松太平らと出会う。その頃の大岸の愛読書はホイットマン『詩集 草の葉』、メーテルリンク、ブレイクであった。

 またこの頃、大岸は大川周明らの『月刊日本』に接し、その後、ペンネームで同誌に「全日本的輪中意識」あるいは「軍隊の社会化と社会の軍隊化」などの原稿を発表した。30年には「兵農分離亡国論」を書き、雑誌『兵火』を出した。『兵火』では「農民及労働者の爆発を一挙に革命過程に摂取する方案」などが提案されている。

 『兵火』の運動は弾圧されたが、憲兵隊に調べられた末松は憲兵に「大岸中尉の書いたものは兵火に限らず、用語が共産党と、ちっとも変りませんね」と言われた。その後31年8月、後の血盟団、五・一五事件、二・二六事件の中心メンバーが集まった郷詩会の会合に参加した。

 そうした中、大岸は、青年将校運動に重要な影響力を持ってきた北一輝の『日本改造法案大綱』を相対化する傾向を持つ「皇政維新法案大綱」を執筆した。その後、十月事件を経て和歌山61連隊勤務となる。そこで大岸は「軍内融和一致」に取り組む。


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