技術開発への合意の透明性
1つは、既に大きく社会を変えつつあるAIをより開かれたものにしてゆくために必要な、「情報の透明性」「叡智の結集」や「合意の形成」という問題において、NPOと営利企業のどちらが適しているのかという問題だ。
民間の営利企業の場合、例えば、米国の上場企業は、年に4回の四半期決算において、経営内容の詳細な開示をしなくてはならない。その信憑性は証券管理委員会(SEC)によって厳しく監視を受ける。また、株主による発言権の行使により統制がされるということもある。
だが、詳細な開示が求められるといっても、趣旨としては株主の保護や株価の構成が公正に行われるためであり、開示の内容は財務を中心とした経営内容が中心となる。また、広報活動はあくまで企業が自社のイメージアップに行うものであり、公正な観点からネガティブな情報まで包み隠さず公開するという姿勢とは異なる。競争力の維持、企業価値の拡大が至上とされる中では、どうしても「お化粧」を施した情報開示になりがちとも言える。
一方で、NPOの場合は組織の存在目的が企業価値の拡大や配当ではなく、国際社会や地域社会への貢献そのものが設立の目的である。従って、今回のAI開発といったような人類の文明に大きな変化をもたらすような技術革新において、国際社会での開かれた議論を喚起するといった場合には、柔軟な動き方ができる。
何よりも、株主による成長へのプレッシャーがない。株主のプレッシャーがないことで、自由な議論が可能になるし、何よりも貨幣価値への換算が可能な活動に限定されずに、幅広く活動分野を広げることが可能になるからだ。
だが、NPOにも弱点がある。財務会計の観点からの開示ということでは、資金調達の公正、組織としての財務の健全性などの開示が求められるだけで、下手をすると透明性を欠くことにもなりかねない。米国の場合は、大規模なNPOの場合は経営内容のかなり詳細な開示が求められてはいるが、上場企業への監視に比べるとまだまだ甘さがある。
変わる資金調達とスピード感
第2の問題は、資金調達の違いだ。いわゆるシリコンバレーのテック系企業の場合、競争力のある技術開発に成功した場合には、かなり早期の先行投資期間から株式を上場する傾向がある。
例えば、グーグルやフェイスブックなどの場合は、無料のサービスを全世界に普及させる初期段階で株式市場から巨額の調達を行っている。俗にマネタイズというサービス対価の徴収や、広告主などからの収入確保はその後であり、やがて貨幣価値の収入を伴ったビジネスモデルが成立すると、株価の上昇と配当により株主にはメリットが出てくる。
営利企業の場合は、そのようなダイナミックな資金調達が可能だ。また、こうした投資の資金は、純粋にリターンを求めるものであるから、一部の例外を除けば特定の価値観を持たない。つまり、投資は無色透明であって、リターンが期待される範囲では、事業執行の方向性は丸ごと経営陣に委任される。従って経営陣としての自由度は高い。
一方で、NPOの場合は官民の広範な資金を集める必要がある。また、株式市場や証券会社などが資金を集めてくれるわけではないので、NPO法人自身が多方面から資金を調達することになる。