2024年12月22日(日)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年11月29日

 対話型AI「ChatGPT」を運営するオープンAI(OpenAI)社では、まず11月17日にサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が突然解任され、アルトマン氏が一旦はマイクロソフト社への移籍が決まった。ところが、多くの技術者がアルトマン氏に追随してマイクロソフトに転職する構えを見せたこともあり、紆余曲折を経てアルトマン氏はCEOへ復帰するという形で決着した。

突然解任を言い渡され、復帰となったサム・アルトマンCEO(AP/アフロ)

 この動きについて日本では、「経営陣の混乱」だという印象で報道がされている。米国でも一部にはそのような見方があるが、今回の事件は、単なる「混乱」という一言で済ませることはできない。具体的には、1つの大きな論点が指摘できる。

AI事業は誰が担うべきか

 それは、そもそも人類の文明を左右しかねない、AIの開発というプロジェクトは、民間の営利企業が手掛けるのが良いのか、それとも現在のOpenAI社のようにNPO(非営利法人)として進めるのが良いのかという問題である。

 NPO法人というと、日本的な感覚では天下り官僚が居座っていそうだとか、あるいは社会運動家など経済的な成果に関心の薄い人間が関与していそうだというイメージが付きまとう。一方で、営利企業というと、悪どく利益を追求し、経営陣や株主が暴利を貪るとか安易に売却して巨利を得るなどの、これもまた良くない印象が拭えない。

 そうした見方からすると、今回の一連の経緯は「民間の営利企業」を代表するマイクロソフトと、これと協業しようとしたサム・アルトマンCEOに対して、「非営利法人」であるOpenAI社を中心に開発を進めようとしたチーフサイエンティストのイリヤ・サツケバー氏の勢力争い、単純化するのであれば個人的確執のように見える。

 だが、今回の経緯の示している問題は、そう単純ではない。

 確かに、NPOか営利企業かという対立構図があるのは事実である。けれども、その対立軸は、「強欲」か「アンチ経済」か、というような問題ではない。

 そこには2つの大きな論点が横たわっている。


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