2024年5月25日(土)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年11月29日

 来年の大統領選挙を前にして、米国の治安が悪化して商業への悪影響が出ていると頻繁に報道されるようになっている。今回の記事では、その背景に加えて、来年の大統領選挙・連邦議会選挙との関連について検討することにしたい。

夜明けのサンフランシスコ。治安は悪化しているのか?(bluejayphoto/gettyimages)

本当に犯罪は増えているのか?

 今日の米国で治安がとりわけ悪化したという印象が持たれているのは、サンフランシスコ市とニューヨーク市であろう。サンフランシスコ市では、薬物犯罪や集団強盗事件を取り上げる報道が増大しているし、多くの商業施設が治安悪化や従業員の安全確保の困難性を根拠として閉店したとも報じられている。

 例えば、サンフランシスコ市では、今年4月には高級スーパーのホールフーズが1年前に開店したばかりの店舗を閉店したし、8月には街の象徴的存在であった百貨店のノードストロームが閉店した。10月にはディスカウントストアのターゲットが近郊店を含めて3つの店舗を閉店している。同様に、ニューヨーク市でも薬物犯罪や集団強盗事件が増大しているとされるほか、地下鉄の治安が悪化しているという報道が増大している。

 米国では1980年代後半から90年代前半にかけて大都市部での治安悪化が重要争点となった。現在の米国は、当時を彷彿とさせるかのような状況にあると指摘する論者もいるほどである。

 ただし、犯罪統計上、サンフランシスコ市やニューヨーク市の凶悪犯罪の認知件数が増えているわけではない。サンフランシスコ市の窃盗事件の数は、2022年は前年比で14%増加して約3.7万件となっているものの、コロナ禍前の水準より低い(例えば19年は4.2万件だった)。ニューヨーク市の地下鉄内における犯罪件数も、22年には増大したものの、今年になってからはむしろ減少しているというのが交通局の公式見解である。

 だが、犯罪に関する公式統計と多くの人々の体感治安にはズレがある場合が多い。犯罪の公式統計が示すのは犯罪の実数ではなく認知件数なので、軽微な犯罪については通報されないとか、警察が重要犯罪でないと判断して書類作成をしない結果として記録されないこともある(逆に、警察が犯罪として登録したにもかかわらず、数年後に無罪判決が出される事例も少ないながらもある)。実際の犯罪数は公式統計より多いと指摘されている。

 とりわけ、カリフォルニア州とニューヨーク州はリベラル派の影響が強く、厳罰化よりも犯罪者の更生可能性を重視する傾向が強い。カリフォルニア州は950ドル以下、ニューヨーク州は1000ドル以下の万引きを軽犯罪として処理することを認める法律も存在するため、現行犯でない限り、逮捕も捜査も起訴も行われない可能性が存在する。そのため、実際に犯罪が増大しているかを確定するのは非常に難しい。


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