2024年11月22日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2023年12月9日

果糖が悪いのか?

 砂糖が肥満の原因という説は崩れたのだが、そこで出てきたのが果物の甘味の成分である果糖が悪玉という説である。砂糖はブドウ糖と果糖が結合した形であり、体内で分解してブドウ糖と果糖になる。そして果糖は清涼飲料水の甘味として使われている異性化糖(コーンシロップ)の主要な成分だ。

 異性化糖はトウモロコシなどのデンプンを分解してブドウ糖を作り、これをブドウ糖より甘味が強い果糖に変化させたものだ。1970年代から急速に普及した結果、世界の砂糖の消費が減少した。

 70年代に米国人は砂糖46.2キログラム(㎏)、異性化糖0.2㎏を消費していたが、2000年代には砂糖は28.9㎏に減り、異性化糖は29.8㎏に増えている。従って肥満の増加と相関するのは砂糖ではなく果糖と言うことになる。

 果糖はブドウ糖と違って短期的には血糖調節に悪影響を与えない。しかし過剰摂取は肥満、糖尿病、脂肪肝の一因となるとともに、終末糖化産物(AGE)を形成して老化、糖尿病合併症、動脈硬化などを引き起こすと言われる

 それでは果物は食べない方がいいのだろうか。クマや渡り鳥などは体脂肪を増やすため果物を大量に摂取する。しかし果物に含まれる果糖は4~8gと限られ、吸収を遅らせる食物繊維や、果糖の作用に対抗するフラボノールなどの抗酸化物質も豊富に含まれているので、大量に食べ過ぎない限りは健康にいいと考えられている。また果糖悪玉説にも反対がある

それで結論は?

 砂糖や異性化糖には「甘い」という大きな特徴があり、これがβエンドルフィンやドーパミンの分泌を介して依存症を引き起こし、その結果、砂糖の摂取量が増えてカロリーオーバーになると考えられている。世界保健機関(WHO)はこのような筋書きを考えて砂糖や果糖などの遊離糖の使用制限を推奨している。

 ただし日本では肥満症は極めて少なく、「甘味ひかえめ」の文化が広がっていて、砂糖の消費量も少ない。他方、米国のケーキ類のあまりの甘さに驚いた人も多いと思うが、砂糖の一人当たりの消費量は日本の2倍である。日米には肥満遺伝子の違いもあるのだが、肥満関係の多くの論文は肥満が多い欧米人を対象にしたものであり、米国心臓協会や世界保健機関の勧告がそのまま日本人に当てはまるとは考えられない。

 結論として、最重要の肥満対策はカロリーオーバーにならないことであり、砂糖も含めて食べ過ぎを避けるという常識的な話になる。日本では砂糖や果糖の消費を現在より増やすと問題が起こるかもしれないが、「甘さ控えめ」の文化を継承すれば、改めて減らす必要はないと考える。

連載「脱「ゼロリスク信仰」へのススメ」の記事はこちら。
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る