2024年11月24日(日)

Wedge REPORT

2023年12月12日

歴史的な海事業界と海自の「和解」

 ここで海事関係者の想いを代弁すれば、戦時海運管理令により商船を徴用されたあげく、海軍からまともに護衛もされず、多くの船と仲間が海に散らざるを得なかった、と恨み骨髄に徹するというものだろう。戦後長らく、商船を保有する会社が集まった日本船主協会は、旧海軍の末裔を自任する海自に対して、拒否感に近い感情を抱いていたと言われる。

 この点については既に多く語られているが、筆者も癒えることのない海事関係者の想いを、この目で見たことがある。洋上で軍艦とすれ違う商船は、軍艦に対して船尾の国旗を半分ほど下ろす敬礼を行うことが慣習となっているが、外国商船が護衛艦に敬礼することはあっても、日本商船が敬礼することは決してなかった。

 そんな海事関係者を一変させたのが、ソマリア沖のアデン湾での海賊事件の頻発だった。1991年に始まったソマリアの政情不安が生んだ海賊は、2008年には500人を超す船員を人質にするほどに活動を強め、同年だけで日本の海運会社が保有・運航する商船6隻が海賊の被害に遭った。

 頻発する海賊事件に業を煮やした日本船主協会は、09年1月、浜田靖一防衛大臣(当時)に、ソマリア沖での海賊対策として、海自による船団護衛を陳情した。これを受けて、海賊対処法が成立し、同年3月には護衛艦2隻が派遣され、戦後初めて商船を護衛するに至る。

 当時、船主協会理事長の中村光夫氏が、同協会HPに「海上自衛隊2隻の呉基地からの出航を見送りながら、本当に有難うと思った。(中略)自国の艦船に守られる乗組員の安心感は如何ばかりであろうか」と記したことから、業界では船主協会と海自の和解が実現したと歓迎された。23年9月現在、海自が護衛した商船は、のべ3949隻にのぼる。

信頼回復は道半ば

 いま防衛省は、24年度を目標に陸海空自の共同部隊である「海上輸送群」の新編にむけて準備をすすめている。また、不足する海上輸送力を補うため、16年度から民間資金活用(PFI)で2隻の商船を運用して、商船活用のノウハウを吸収しているところだ。

 日本の経済活動を維持するために、海の安全と商船の活動は不可欠である。また、台湾有事が生じた際に南西諸島を防衛するには、海自のリソースだけでは不足する。事に望んで国民、企業の信頼と支援を勝ち取るために、海自は驕ることなく粛々と実績を積み重ねていくことが肝要だろう。

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