2024年11月22日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年12月20日

 シンガポールのバイヤーに聞いたところ、「シンガポールの所得は高いかもしれないが、毎日食べる米や野菜、果物は安い方が良い。東京に行ったことがあるが、東京の方が人口もシンガポールより多いし、日本の高級品は東京の方が売れるのではないか?」と意外な言葉が返ってきた。

日本の評価とシンガポールのターゲット

 シンガポールの飲食店とスーパーを見ていくと、現地での日本への〝評価〟が見えてくる。

 日本の農産物は、日本人が食のこだわりが強いなか、「おいしい」と支持を得て、一定程度売れているのは確かなようだ。ただ、円安が追い風になっていても、「日本の農産物がどんどん売れている」わけでは無さそうだ。

 一番の問題は価格にあると言える。たとえば、シャインマスカットの場合、中国産が安価なことは分かるが、所得が日本とほぼ同じと言われる韓国産よりも割高なことが多い。

 日本米は、前述のとおり、ベトナム・タイ・米国・豪州などいずれの国の短粒種よりも高い。日本産農産物は日系スーパーでは取り扱っていたが、それ以外のスーパーでは少数派になっている。円安下でもなお、他国産より高い傾向なのが実態だ。

 韓国は10年以上前から、オール韓国で国を挙げて輸出に取り組んできた。イチゴをはじめとした果物なども日本よりは品質は少し落ちるものの、日本産と価格差ほどの大きな差はないと言われている。

 シンガポールの面積は東京23区ぐらいだが、人口は東京都の半分以下、在留邦人も4万人以下で、米などをスーパーやネットで日本人向けに販売する場合、市場は大きいとは言えない。地元の方に聞いても、シンガポールの方々は自宅で日本米を食べることは少ないという。

「輸出立国ニッポン」へ求められるもの

 前述のシンガポール人バイヤーから「東京の方がマーケットは大きいはずなのに、なぜ日本人はシンガポールに来るのか?」と疑問が出てくる理由がここにある。両国を知るシンガポールの方には不思議に思えたようだ。

 このような課題を投げかけられる背景には、日本が輸出を進める理由が今一つ明確ではないからではないか? まずはなぜ輸出なのか、そして対象国としてシンガポールが挙がった場合はシンガポールを知り、どのような層にどのような物を売るべきかを情報収集した上で、戦略を立てて行うべきだろう。こうした現状と課題は行政職員やJAの担当者らが人任せにしないでシンガポールに来て、実際に見聞して現状を正確に把握することが重要になると思う。

 別の日系スーパーのシンガポール人バイヤーが「価格が高いかどうかは一概に言えない。品質によって消費者の評価は決まる」との指摘は参考になる。また、独特な販売戦略で有名な日系スーパーの現地法人が他の日系スーパーより大幅に価格を下げ、シンガポールで店舗数を17年の1号店から16店舗まで増やしている。品質と価格のバランスが評価されている格好だ。

 「日本産農産物が大人気」という一部メディアなどの情報に惑わされず、相手国と自分の農産物の特性を冷静に分析して、輸出にも臨むべきではないだろうか。

 『Wedge』2023年1月号の特集「農業にもっと多様性を! 価値を生み出す先駆者たち」に、スマート農業に関する記事を加えた特別版を、電子書籍「Wedge Online Premium」として、アマゾン楽天ブックスhontoなどでご購読いただくことができます。
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る