イスラエルとハマスの紛争は、スマートフォンやデジタルデバイス、さらにSNSがかつてないほど普及している中で勃発した。パレスチナ中央統計局(PCBS)によれば、貧しい暮らしを強いられてきたパレスチナでも、2021年末の段階で、パレスチナ住民540万人のうち10歳以上でスマホを所有している人の割合は70%を超える。子どもを除けばほとんどがインターネットにアクセスできる状況にある。
今回の紛争は、現地から数々の写真や動画が公開され、シェアされている。筆者は紛争開始直後から、X(旧ツイッター)などのSNSや無料メッセージングアプリのテレグラムの投稿をチェックしてきた。そこで目に飛び込んでくる現地からの情報は、大手メディアよりも断然早く、生々しい。戦闘員らが小型カメラで撮影したり、被害者が撮影したりしたものも多い。
スマホが普及し、ネットに簡単にアクセスできるようになり、こうした伝達が容易にできるようになった。もっとも、そうした画像や動画には真偽不明なものも含まれるが、それでも感情を揺さぶられるような凄惨なものが多く見受けられる。中には、分断を煽る意図的な投稿もあり、問題をより複雑にしている。
今回の紛争をめぐり、イスラエルとパレスチナのどちらが悪いのかをめぐって世界的に世論が二分している。しかも私たちの生活に切り離せなくなったスマホなどのデジタル世界から情報を得ることで、その分断をさらに加速させている。
例えば、イスラエルによる報復攻撃が始まって約10日後、SNSには、イスラエルからの投稿よりもガザからの被害状況を伝える投稿が溢れかえった。世界で10億人のユーザーがいる動画アプリTikTokでは、パレスチナ寄りの「#standwithpalestine」というハッシュタグが付いた動画は1週間で29億回ほど再生されているが、同期間にイスラエル寄りの「#standwithisrael」と付けられた動画は2億回ほどに過ぎなかった。ハッシュタグによって分断は深まってしまったのである。
アルゴリズムにより
閉ざした環境がつくられる
生々しい紛争の被害画像や動画を毎日のように見ていると、客観性を失いそうになる。それは筆者も例外ではなかった。ところが、ちょうど報復攻撃開始から約2週間後、イスラエルの政府関係者と意見交換をしている際に、この関係者の親戚が紛争の犠牲者になり葬儀を行ったことを話し始めた時、筆者はハッとさせられた。イスラエル側でも、生活のリアルな部分に紛争の影響が及んでいることを改めて気づかされたからだ。
そもそも、SNSというコミュニケーションツールは、自分と似た興味や関心を持つユーザーをたくさんフォローし、アルゴリズムによって、同じような趣向のニュースや情報ばかりが流通する。そのために、自ら閉ざした環境をつくり上げてしまい、その環境に自分を押しとどめてしまうことになる。この現象は「エコーチェンバー現象」と呼ばれる。
英国のケンブリッジ辞書の定義では、「人々が一つのタイプの意見、または自分自身の意見に似た意見しか聞かない状況」のことを指し、その声だけが集まった部屋の中で共鳴し合っていることをいう。例えばXで、自分に反対する、または考えの合わないユーザーをブロックしていくことで、表示されるニュースは自分の考えに合った情報ばかりになる恐れがある。
さらに、社会的または政治的な分極化を引き起こす可能性をはらむ。
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