2024年11月21日(木)

Wedge2024年1月号特集(世界を覆う分断と対立)

2023年12月22日

 諸外国のみでなく日本でも、社会の分断が指摘されて久しい。危機感を抱いている読者も少なくないだろう。

 だが日本社会における分断は、他の欧米先進国とは内実が大きく異なる。その自覚がないと処方箋を誤る。

伝統的に「清潔さ」を重んじてきた日本社会には、猥雑さやノイズへの許容度が低い面があり、「不快なもの」を自分の視野に入れまいとしてしまう(KO SASAKI)

 例えば、英国の階級社会や、米国の多人種社会では、「分断がある」「自分と違う人たちがいる」ことは昔から前提だった。これまではその分断を「われわれは進歩している」とする歴史観や、「最下層にも行き渡る」ほどの富の豊かさで、緩和することができた。

 ところが、新興国が台頭し、西側の覇権が揺らぐ時代には、それらの緩和装置が機能しない。結果として、以前から存在した分断がより熾烈になってきたのが、現在の欧米社会だ。

 日本の場合はまったく逆だ。むろん格差の拡大や、外国人労働者の増加は見られるが、その度合いは欧米に比べればまだまだ低い。むしろ「この国に住むのは、だいたい同じ人たちだ」とする感覚が、今も前提に残っている。

 ところが、その感覚があるために、「常識が通用せず、理解できない相手が増えた」という不安が、一気に日本人を「もうこの社会はおしまいだ」とする絶望に突き落としてしまう。それが日本で分断と呼ばれるものの正体だ。やたらと「モンスター○○」といった形容句で、トラブルの相手を悪魔化しようとするのは一例である。

 問題は、そもそも分断の性格自体がまるで異なるのに、「欧米の処方箋」を直輸入してゴリ押しすれば解決するかのような錯覚が、政界でもメディアでも蔓延していることである。

 例えば、新自由主義との決別をうたって成立した現在の岸田文雄政権には、確かに「分断の克服」という問題意識があった。2023年6月には欧米に倣って、性的マイノリティーに対する理解を広めるための「LGBT理解増進法」を成立させてもいる。

 しかし、その結果はどうだったか。LGBT法の審議では、「性別は本人の自認だけで決まる」とする極端な主張ばかりに注目が集まり、かえって性的少数者への敵意や偏見は強まった。

 欧米流の「反緊縮」派の主張に沿い、少子化対策に多額の国費を投じると打ち出しても、「なぜ子育て世帯だけなのか」「富裕層には不要なはず」と、むしろ分断を煽ってしまうだけだった。

 欧米でなら、これまで分断を覆い隠してきた「進歩の物語」や「潤沢な社会福祉」を復活させることで、元に戻れるとする想定にも一理ある。しかし日本が直面しているのは、日本人同士が「だいたいは互いに同じ人間」として感じられなくなるという、まったく別種で、かつ新しい危機なのだ。


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