デイフ司令官は2001年から21年までに実に7回もイスラエルによる暗殺作戦を逃れた。14年の暗殺未遂で妻と3歳の娘を失ったが、自身は辛くも生き残った。7回の暗殺未遂で大けがを負い、両手、両足、片目を失い、車椅子生活ながらもカッサム旅団を率いて、10月7日の奇襲攻撃を立案、指揮したと言われてきた。
だが、「動画」では、司令官は不自由ながらも自分の足で歩き、両腕も失っていないようだという。軍のラジオ放送は同紙の報道を「驚くにはあたらない」としている。司令官の写真や動画はほとんどなく、〝影の人物〟とされてきた。今回の動画映像が本物と判明すれば、司令官をめぐる謎の1つが解明されることになる。
潜伏先は3カ所のいずれかか?
デイフ司令官の手掛かりは得られたが、代表のシンワルの足跡はない。シンワルはイスラエル兵2人を殺害した容疑で捕まり、11年までの22年間、イスラエルの刑務所に服役していた。17年にガザ代表に出世し、カタール在住の最高指導者イスマイル・ハニヤに次ぐハマスのナンバー2になった。
今回の戦争中、捕らわれていた人質の一部がシンワルと会ったという報道もあったが、その後の行方は不明だ。イスラエル軍はハンユニスの自宅を捜索したが、もぬけの殻だった。イスラエル高官が〝死刑囚〟と呼ぶシンワルとデイフはどこに消えたのか。
中東専門家やイスラエル・メディアなどによると、潜伏先と考えられる候補地は3カ所だ。1つ目は2人にとって地元でもあるハンユニス地域の地下トンネルか民間住宅だ。ハマスはイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けるに当たっては、軍の猛烈な報復とガザ侵攻を想定しており、外からは分からないよう特別な仕掛けを施された地下トンネルを建設、そこに潜伏している可能性はある。
2つ目は南のエジプト国境沿いのラファ周辺の地下施設か民家だ。ラファはエジプトとの検問所があり、現在は国連の人道支援物資の搬入先で、イスラエル軍に追われた住民数十万人が避難している。これ以上、軍の攻撃が激化すれば、住民らが検問所を破ってエジプト側になだれ込む恐れもあるとされる。こうした混乱が起きれば、シンワルらにとっては好都合かもしれない。
3つ目は2人がすでにエジプト側のシナイ半島に脱出した可能性だ。エジプトとガザの境界にはかつて無数のトンネルが掘られ、ハマスの武器や弾薬はほとんどこのルートでガザに運ばれたとみられている。エジプトはイスラエルからの要求もあり、トンネルをつぶしたが、破壊から免れたトンネルが残っている可能性はある。
エジプトのシシ政権はもとよりイスラエルとの本格衝突は望んでおらず、2人を受け入れることは常識的にはない。ハマスの源流はシシ政権と敵対するイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」で、ハマスとの関係は良好ではない。だが、最高指導者ハニヤが20日、カタールからカイロを突然訪問し、エジプト外相やイラン外相と会談しているのにきな臭さを感じる向きもある。