2024年4月29日(月)

Wedge2024年1月号特集(世界を覆う分断と対立)

2023年12月20日

この紛争下で中東諸国にとって地理的に遠い国・日本にできる役割はあるのか。
エジプトでの勤務経験がある元駐米大使の加藤良三氏に聞いた。
加藤良三(Ryozo Kato)
元駐米大使 1965年外務省入省。アジア局長、総合外交政策局長、外務審議官、駐米大使を歴任。2008年に退官後、13年まで日本プロフェッショナル野球組織コミッショナーを務めた。17年に瑞宝大綬章を受章。

 イスラエルとパレスチナが抱える複雑な歴史や宗教上の背景を日本人が理解することは容易ではない。一場面だけを捉えてどちらが良い・悪いかを判断することも難しい。

 また、昨今はグローバリズムの時代で「ボーダレス化」が進んでいるといわれる。だが、依然として、国際社会を構成する単位はネーションステート、すなわち「国民国家」である。帰るべき最終の故郷ともいえる「国」がないという悲哀を、日本人は想像しにくいだろうが、このことに思いを馳せ、ユダヤ人とパレスチナ人が歩んできた苦難の歴史に目を向ける必要がある。

 日本から中東地域は遠い。逆もまた真なりである。私は1978年から3年間、在エジプト日本国大使館で勤務し、中東地域のさまざまな要人と接触・交流した。そうした経験から私見を述べると、中東における日本の人気は決して低くない。

 理由は二つある。一つは、非白人国ながら、日露戦争でロシアに勝利した国であるとの認識が依然存在する。

 もう一つは、日本は「悪いことをしない」国という印象があることだ(72年に日本赤軍がテルアビブ・ロッド国際空港で起こした乱射事件はあるが、これは「日本」の犯罪とは思われていない)。日本は中東で「クリーンハンド」を有している。だからこそ日本は、意識的に遠くに立ち、公正な意見・正論を述べ、日本らしいことをやり続ければいい。それが日本の役目であり、価値である。


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