2024年12月11日(水)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年12月26日

 12月17日付の産経新聞が「セキュリティ・クリアランス制度(適性評価)制度」の概要が明らかになったと報じている。人工知能(AI)や半導体に関する情報取扱者の犯罪歴などを調べるために一元的調査機関を新設することが柱で、厳格な審査を通じて諸外国とも重要情報を共有・交換できる体制を整え、国際共同研究・開発への積極的な参加を目指すとしている。

(BeeBright/gettyimages)

 2月14日に開催された第4回経済安全保障推進会議の席で岸田文雄首相は、セキュリティ・クリアランス制度の法整備に向けて高市早苗経済安全保障担当大臣に対して有識者会議を立ち上げ、今後1年をめどに可能な限り速やかに検討作業を進めるよう指示した。

 この指示を受けて2023年2月22日に第1回の有識者会議が開かれ、12月20日には9回目の会議が開かれている。冒頭の産経新聞の記事は、第8回の会議を受けてのものだが、国籍条項や企業経営者の扱いなど、まだまだ議論は、尽くされていない。

 24年度の年度通常国会に法案を提出することにこだわり、実効性のない制度になってしまわないか懸念が拭えない。

制度の対象は?

 今回有識者会議で議論されているのは、政府が保有する安全保障上重要な情報を民間企業と共有する場合のセキュリティ・クリアランスのあり方である。言うまでもないが、政府が保有する情報は防衛機密など、最高レベルの秘匿が求められる情報であり、この情報へのアクセス権を決定するセキュリティ・クリアランスは最も厳格に行われなければならないものだ。

 したがって、今年11月に報道された池袋パスポートセンターに勤務する中国籍の女が、パスポート申請書や戸籍謄本をコピーし、分かっているだけでも1920人分もの個人情報を持ち出していた事件が記憶に新しいが、再発防止には、今回のセキュリティ・クリアランス制度が立法化されても、適用されないため意味をなさない。

 ちなみに戸籍謄本のデータは、工作員が実在する人物になりすます、いわゆる「背乗り」に利用される。さらに、本人に間違いないことを確認できる書類としてマイナンバーカードの情報も漏えいしていることから、これらの情報を元にすれば、オンラインで金融機関等の口座開設が可能となるなど、工作員が容易く一般市民に紛れ込むことができる。


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