2024年11月23日(土)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年12月26日

 こうした事件が繰り返されないよう採用に当たってパスポートセンターの職員にもセキュリティ・クリアランスが実施されなければならないが、その最上位の手続きが今回の制度である。手本になりうるその手続きよりも緩い手続きが、地方自治体や特定の民間企業に課せられるのは想像に難くない。

中途半端な国籍条項に関する議論

 多くの日本人が経済安全保障で最大の脅威と感じているのは「中国人」ではないだろうか。国立研究開発法人「産業技術総合研究所」に勤務する中国人研究者が、中国企業に情報を漏えいさせて不正競争防止法違反(営業秘密の開示)に問われている事件や、今月5日に電子部品大手の「アルプスアルパイン」の元社員で中国籍の30代の男が同社の営業機密を不正に持ち出していた疑いで逮捕された事件など、中国人による機密情報の持ち出し事件が相次いでいる。これらの事案は氷山の一角に過ぎないのだ。

 中国には17年6月28日に施行された中国国家情報法がある。その国家情報法の第7条には、国民の協力義務として、「いかなる組織及び個人も、法に基づき国の情報活動に協力し、国の情報活動に関する秘密を守る義務を有し、国は情報活動に協力した行う組織及び個人を保護する」としている。これは世界中のすべての中国人にスパイ行為を義務付けている法律である。

 また、10年7月1日からは有事の際に発動される中国国家動員法が施行されている。これは有事の際にすべての中国人が動員対象になるほか、有事の際には、登録された特許の無承諾での徴用を可能とするものである

 米国にはセキュリティ・クリアランスを行う上での判断基準となる17年に発行された国家安全保障判断指針(National Security Adjudicative Guidelines)がある。その付録(APPENDIX)A-(c)に「米国政府は、国家安全保障の資格を決定する際に、人種、肌の色、宗教、性別、出身国(national origin)、障害、または性的指向に基づいて差別しません」とあり、出身国(national origin)での差別はしないが、国籍(nationality)については言及していない。

 有識者会議で中国国家情報法や中国国家動員法が取り上げられたのは、5月29日に開催された第6回の会合だけだ。しかも、そういう法律が中国にはあるという紹介だけで、議論された形跡は見当たらない。

 有識者の間でこの問題がもっと真剣に議論されてもよかったのではないか。中国国家情報法や中国国家動員法のような極めて特異な法律を施行する国を例外として、世界に先駆けてどのような扱いをするのか示して欲しかった。


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