2024年5月19日(日)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年12月26日

 また、犯罪歴に関してもカナダでは17年2月1日以降は、指紋による照合がセキュリティ・クリアランスの要件とされているなど、必ずしも米国と同一ではない仕組みもある。米国のセキュリティ・クリアランス制度を優先的に参考にしつつも、広く他国の制度について検討するなど、時間をかけた検討を行うべきだ。岸田首相の指示に従うだけでなく、一国の運命を左右しかねない重要事項として、十分な検討を行う必要があるのではないだろうか。

至る所に入り込んでいる工作員

 中国から日本に対する浸透工作は、中国の建国以来継続的に行われており、中国共産党員や統一戦線の工作員が経営するソフトウェア会社や民間の研究部門や財務、人事、あるいは自衛隊幹部の妻など、ありとあらゆるところに潜り込んでいる。企業の従業員、留学生や海外在住者など、その多くは、通名を使用しているため、一見するだけでは識別できない。履歴書や面接だけでは防ぎきれないところまできているのが実情だ。

 セキュリティ・クリアランス制度の必要性は政府にとどまらず、社内の機密情報を獲得する協力者の工作活動を懸念する民間企業でも求められている。民間企業では合併統合が多く、協力者や工作員の発見は企業にとってますます困難なものとなっている。機密情報を扱う社員の渡航歴などのチェックが定期的に行えるような仕組みも求められているのだ。

 だからこそ最重要機密を扱う今回のセキュリティ・クリアランス制度は、模範となるものでなければならない。遅きに失しているセキュリティ・クリアランス制度の導入について、今さら拙速にことを運ぶ必要はないはずだ。じっくり腰を据えた議論が求められる。

 一元的にセキュリティ・クリアランスを行う調査機関の設立も検討されているようだが、天下り先が一つ増えただけの形ばかりのセキュリティ・クリアランスにならないことを切に希望する。

2024年1月、ウェッジより『新領域安全保障 サイバー・宇宙・無人兵器をめぐる法的課題』(編・笹川平和財団新領域研究会)を発刊いたします。サイバーなど「新領域」での安全保障における国際法・国内法上の課題について、自衛隊幹部OB、法学者、弁護士など10人の専門家が交わした2年間の議論の集大成となります。

   
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