それはそれで正しいとは思うが、経済秩序を揺るがせている背景には、米国の指導力の衰退や国際政治秩序や法の支配に対する挑戦があるわけで、それらの問題を抜きにしてIMFや世銀だけの改革で経済秩序が守れるかは疑問がある。
国際政治秩序と国際経済秩序は切り離すことはできないことは言うまでもないが、論者は、特にロシア制裁の効果が十分でなく、またガザ戦争における米国の対応が国際経済秩序に深刻な影響を与えることを懸念している。そうであれば、国際的な安全保障体制や法の支配を回復することがより優先すべきであるが、エコノミストの論者の意見は、それは難しく時間がかかるので経済秩序を守るためには経済の中で完結できる成果を目指すべきだという事のようである。
IMFと世銀の改革について論者は、(1)発言権と代表制、(2)任命プロセス、(3)業務手続きの近代化を上げている。
(1)の「発言権」とは、出資比率に応じて割り当てている投票権の問題であり、「代表制」とはこれにリンクした理事会のメンバーシップの問題であろう。その趣旨は、現在の経済規模に応じて中国等の出資比率を見直すことにより、途上国、特にブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成する新興5カ国(BRICS)の発言権に反映させ、IMF・世銀体制に引き留めるべしという主張と思われる。
IMFは、11月の理事会で、途上国の債務支援のために加盟国に50%の増資を求める案を承認したが、出資比率の見直しは時間がかかるとして行わず、2025年6月までにその調整のための指針を策定することとなっている。
しかし、中国はこれまでに債務の罠問題など現在の途上国の債務問題を作り出し、現在でもIMFによる途上国債務の再編努力に協力せず妨害していると言われる。中国は途上国への融資の際に自国への優先的な返済義務の密約を課しているともみられており、中国がそのような事をやめない限り、IMFに影響力の拡大を認めるべきではないであろう。
信頼を回復するには
また、世銀についても、貧困等の伝統的な課題に加え、気候変動、感染症、紛争等による新たな状況において世銀自体の使命や業務を見直し、資金を拡充していくことを課題と位置付けており、業務面での改革の必要性は認識されている。
(2)の任命プロセスの近代化とは、IMF専務理事は欧州出身者、世銀総裁は米国人という不文律を変えろという事と解釈される。最近はIMFも世銀も理事会の選挙で選ばれることとなっているので、諸般の条件が満たされれば、これは不可能ではないであろう。
いずれにせよ、IMFや世銀が信頼を回復するためには、その実績を上げることが重要であり、必要な増資や業務手法の改善によって、途上国債務危機や温暖化防止対策にまず成果を上げることが優先されるのではないかと思う。