2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月15日

 ケンブリッジのクイーンズ・カレッジ学長のエル・エリアンが、欧米主導の国際経済秩序が崩壊して世界が混乱状態に陥る危険があり、これを回避するためには世界銀行、国際通貨基金(IMF)の改革から取り組むべきであると、2023年12月14日付のProject Syndicateで論じている。

(TarikVision/gettyimages)

 欧米主導の世界経済秩序にとって23年は最悪の年であった。 

 特に2つの動きが、欧米主導の秩序に対する不満の増大に拍車をかけた。

 第一に、ロシアは、国際決済システムの利用制限や石油輸出価格の上限設定などの制裁にもかかわらず、活発な貿易を維持している。ロシアによって考案された場当たり的な貿易・決済スキームは、国内経済へのダメージを最小限に抑え、ウクライナでの戦費を賄うことができた。さらに、ロシアを支援する国は増えつつあり、制裁の成果は限定的で、各国が欧米主導の経済秩序に従わざるを得ないという思いは薄れつつある。

 第二に、イスラエル・ハマス戦争における米国の役割は、多くの国にとって、基本的人権を守るという西側のコミットメントが空言であることと国際法遵守の一貫性のなさを露呈した。10月7日のハマスによる大量殺害に対するイスラエルの対応は行き過ぎ、イスラエルは国際的な支持を失っている。

 最近の国連総会の停戦決議には153カ国が賛成し、反対はわずか10カ国、23カ国が棄権した。イスラエルが国際法を無視し、民間人を爆撃することを許してきたことを嘆く国が増加している。

 これらの国々は欧米主導の国際秩序の有効性と正当性に疑問を投げかけ、既に始まっている一極支配から多極的なグローバル経済への移行を加速させる恐れがある。

 欧米諸国はこの脅威に正面から立ち向かわなければならない。既存の多国間機構を強化することにより更なるリスクを軽減し、国際的無秩序への急速な転落を回避することに重点を置くべきである。

 その努力は、IMFと世銀を始めとする主要機関の改革を再活性化することから始めるべきである。焦点は、発言権と代表制、欧米の利益になるような時代遅れの任命プロセスの解体、そして、業務運用手続きの近代化である。

 これらの改革は、第二次世界大戦後、世界に貢献してきた欧米主導の秩序にとって極めて重要だ。もし現在の国際的枠組みが破綻するようなことがあれば、世界的な混乱が拡大することになる。その結果、短期的にはすべての人を害し、長期的には複雑で拡大する課題に共同で取り組む能力をも阻害することになろう。

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 ケンブリッジのクイーンズ・カレッジ学長で、主要メディアでも活発に発信しているエジプト系米国人の経済学者エル・エリアンが、欧米主導の国際経済秩序に対する有効性と正当性が揺らいでおり、混乱状態に陥るリスクを回避するために多国間組織の強化に取り組むべきであると論じている。同人は、IMFの勤務経験もあり米債券運用大手パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)で最高経営責任者(CEO)を務めオバマ政権のマクロ経済政策のブレーンでもあったことから、そのような経験を踏まえての警告であり、傾聴に値するものであろう。

 エル・エリアンの言う国際秩序とは、主として経済秩序のことであり、その主たる構造はブレトンウッズ体制である。秩序を守る努力は、その根幹であるIMFおよび世銀を改革して新興市場国を秩序内に引き留めるようにすることが優先だということになるのであろう。


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