2023年11月23日付Foreign Policy誌は、スティーヴン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)による「2023年に感謝を捧げるべき世界における5つの事柄」と題する論説を掲載している。
感謝祭となったが、怒りや不安を覚えることが多い。ウクライナの勝利の見通しは見えず、中東では再び紛争が勃発し、罪のない人達が命を失った。気候変動による破滅的な出来事が頻繁に起こっている。米国は、最も醜悪な政治キャンペーンに突入しつつある。そんな状況下でも、暗闇を照らす光に感謝したい。そうすべき理由が5つある。
第一に、世界の大国が直接に戦火を交えなかったことに感謝すべきである。大国間の全面戦争はより弱小な国の間の紛争よりもはるかに多くの人的損害をもたらす。核のリスクを別にしても、大工業国が直接に衝突することは極めて破壊的である。
第二に、地政学上および経済面での幸運がある。米国は、二極化してしまっており、銃規制で問題を抱えており、再選されたら民主主義の秩序をひっくり返すと公言している前大統領がいる。一方、米国は戦争の荒廃に見舞われているわけではないし、外国の侵略の脅威にさらされているわけでもなく、また、引き続き世界で最も豊かな社会である。
第三に、人道活動家、平和に向けて努力する人たち、正義に向けて抗議する人たちがいる。世界は紛争と困難に満ちているが、重荷を軽くし、苦しみを軽減し、分断を橋渡しするために毎日努力を払っている人たちに感謝する。「国境なき医師団」、「国際救済委員会(IRC)」、「国際危機グループ(ICG)」のようなグループである。
第四に、希望の光がある。暗い年の中にあっても、良い判断が恐れを煽ったり疑いをかき立てたりする勢力に打ち勝った瞬間に感謝したい。ポーランドの総選挙で「法と正義」党が敗北したことは同国における民主主義に前向きの一歩であり、欧州の一体性の理念を助けるものである。
第五に、表現の自由が守られている国で生活していることを感謝する。学術における自由は攻撃にさらされているが、依然として自ら望むように考え、執筆することができる。
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上記は、米国の国際政治学者スティーヴン・ウォルトによる2023年の回顧である。ウォルトは対外関与を選択的にすべきとの論を提唱してきたネオリアリストの論客である。
通常、一年の回顧は年末の特集として企画されることが多いが、ウォルトは11月23日の感謝祭の機会を捉えて、感謝を捧げるべき事柄を5つ列挙した。ウォルトは、暗いニュースが多い中にも明るい要素を見いだそうとしたが、彼が感謝を捧げるとしている事柄の中に、逆に深刻な課題が透けて見える。