当面、イデオロギー的に立場を取るのではなく、EUとの間でより緊密で協力的な関係を築こうとするスターマー労働党党首のアプローチが唯一の思慮のある方策と思える。
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上記のウルフの見立てには賛成できる。ウルフは、英国がEU再加盟を目指すとすれば、どのような問題が起こるかからこの論説を組み立てている。ウルフの指摘は一つ一つ的確なものであるが、今後、英国のEU再加盟があるかどうかを考えようとすれば、なぜブレグジットが起こったのかから目を背けることはできない。
16年の国民投票で離脱派が多数を占めてブレグジットが起こった背景・理由は、複合的である。自信家で政治的ギャンブラーであったデビッド・キャメロン首相が保守党内を鎮めるために残留派勝利が確実と踏んでやらなくても済む国民投票に打って出たこと、15年の欧州移民危機で国民が移民の流入に敏感となったこと、キャメロン政権下の緊縮財政政策で国民の不満がたまっていたことなど、さまざまな要因が指摘できる。
一方、それらとともに、長年の欧州統合の進展によって、EUのメインストリームが進める欧州統合のレベルと英国として耐えられる欧州統合のレベルとがマネージできる範囲を超えるほど広がったことが重要である。
やはり英国とEUはマッチしない
制度に着目すれば、ウルフも言及している「選択的離脱(オプトアウト)」と「財政上の払い戻し(リベート)」はその一端を示している。リベートとは、かつてマーガレット・サッチャー首相が「われわれのお金を返せ」と英国の財政貢献のあり方について散々に文句をつけて制度化されたものである。オプトアウトとは、自国が望まない欧州統合プランを採択する際、それに従わないことを認められることであり、例えば、現在のEUを形作る礎石となったマーストリヒト条約の採択の際に、英国は通貨統合と共通社会政策からのオプトアウトを強く主張し、認められた。
こうした弥縫策をとりながら何とかマネージをしてきたが、欧州統合の進展によって両者の距離が次第に開き、また、ユーロ危機、欧州移民危機などさまざまな危機で矛盾が表面化し、英国の側が耐えられなくなって破断界を迎えたのがブレグジットであった。英国内で「ブリグレット」の感情が広がっているといっても、EUに再加盟しEUの単一市場の四つの自由(「人・物・資本・サービスの移動の自由」)の一環として、EU域内から自由に移民が入ってくることを英国は許容できるのか。それだけを考えてみても、なぜブレグジットが起こったのかを踏まえない議論は空虚であると思う。
結局、英国は、EUのメインストリームになるには考え方が違いすぎており、メインストリームで決められたことを飲み込むには大国でありすぎたのだと思われる。その問題を解決しない限り、英国のEU再加盟は起こらないであろう。