2024年11月22日(金)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2024年2月14日

 このような状況で名目賃金が上昇しない理由は乏しい。付加価値向上や生産性改善の結果としての上昇ではない名目賃金の高止まりは企業収益圧迫を通じて、日本の企業部門の重しとなる展開が危惧される状況に見える。

生産改善 or 移民受け入れ

 もちろん、これは極めて単純化した話であり、そうならない未来もあり得る。例えば1人当たりの生産量、すなわち労働生産性の著しい改善があれば、人手不足という難局も打開できるだろう。この点、日本において「人工知能(AI)が仕事を奪う」は懸念ではなく希望かもしれない。

 しかし、著しい生産性改善なかりせば、労働需給の逼迫が名目賃金を押し上げることになり、それが生産性を上回る限りにおいて、企業収益を食い潰す要因になる。それは賃金・物価は高く、成長率は低いというスタグフレーションの到来でもある。生産性の改善を抜きに人手不足を乗り越えるには大幅な移民受け入れしかないが、もはやタブー視されている感じもあり、現実的な議論は難しいだろう。

 話をPPPやREERに戻せば、現在見られているPPP対比で過剰な名目ベースの円安・ドル高や半世紀ぶりと形容されるREERの低空飛行はインフレによって、理論的な齟齬が小さくなる方向へ調整が進むように思えてならない。このように考えると日本国内において株や不動産、高級輸入品(車や時計など)の価格がにわかに上昇していることも首肯できる。

 アベノミクス隆盛と共にリフレ派と呼ばれる政策思想が待ち望んだ展開のはずだが、それがより良い未来の兆候と考えるのは今のところ難しい。

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