2023年の名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれ世界4位に転落した日本。アフターコロナの時代を迎え「安い日本」という言葉が飛び交う。各国の中央銀行の金融政策の違いから発生した面はあるとはいえ、現実として国力が低下していることが円安に繋がっているのも事実だ。
日本企業が競争力を維持できない理由は、少子高齢化のほか高度成長期の成功体験が忘れられず変化を拒むという硬直化した企業文化などいろいろ言われている。欧米やアジアとの国際比較を行いながら、文化と心の関係を研究している東京女子大学現代教養学部の唐澤真弓教授に、日本人の気質を解説してもらいながら国力復活のヒントを探ってみた。
憧れが消え、目標がなくなった日本人
米メジャーリーグも開幕が近づき、今年も大谷翔平の活躍が期待されているが、昨年、ワールドベースボールクラシック(WBC)の決勝前に彼が発した「憧れるのをやめましょう」という言葉は日本人に響き、新語・流行語大賞にノミネートされた。外国にも拠点を構えている筆者としては「その通り」と思ったものの、響きはしなかった。
なぜなら、海外に住む日本人ビジネスパーソンがライバル企業に憧れを持っていては競争が激しい世界のビジネスで勝てない。論理的に考えても勝負事やビジネスにおいてその感覚が良くないことは一目瞭然だ。
「『普通』、『日本人ぽい』など何となく共有し、形成されている理想の日本人像があります。日本人は、ネガティブ思考の傾向が強めですが、それを認め、何かが足りないと感じて研さんする国民性でもあります。ただ、それでは理想像に追いついてもこえられません。彼の言葉は『こえなければいけないもの』という意味で響いたと思います」と唐澤教授は分析する。
「日本人に憧れという感覚は大事です。歴史をみれば、中国に憧れ、明治からは欧米に憧れ、戦後は米国に憧れました。ところが、バブル期に経済でトップに立ち、憧れが消え目標がなくなりました。日本人は課題を与えられるときっちりこなす性格ですが、トップに立ったことで自ら目標や課題を設定するのが難しかった。『オリジナリティで勝負しろ』と言われて困ってしまった」。日本人気質が結果的に経済的な停滞を生み出すきっかけとなってしまった。