2024年5月20日(月)

プーチンのロシア

2024年3月2日

「ロシアは生き抜くために戦っているんだ」
プーチン支持の声を上げる中高年層

くつろぐ中高年層のモスクワ市民たち。彼らは戦争やプーチンを支持する傾向が強い(筆者撮影)

 徴兵という形で戦争に直接巻き込まれる可能性がある若年層は、ウクライナ侵攻への不安を強く感じていた。しかし、モスクワの街中で人々の意見を聞くと、むしろ声を大にして侵攻への支持を訴える世代があった。40代以上の中・高年層の人々だ。

「私は戦争に反対で、プーチン大統領を支持する。なぜならプーチン大統領は、戦争には反対だからだ!」

 新緑が美しいモスクワ市内の公園で、娘とともに散策していたナターリアと名乗る60代前後の女性は、「この戦争についてどう思いますか?」との私の質問に、怒気を含んだ声でそう答えた。娘も、「まったく、その通りだ」という表情で母親にあいづちを打っていた。

 ノートを手に彼女の説明を書きとろうとする私に、彼女は勢い込んで語った。

「わかっているのかい。2014年(ロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部で紛争が激化した年)からね、プーチン大統領は誰も侮辱してこなかった。しかしウクライナの特務機関には、どこにでも〝ナチス〟が侵入している」

空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』(ウェッジ)では、空爆下のキーウと制裁下のモスクワに飛び、戦争の趨勢を左右する両国市民の「本音」に迫った。書籍の予約はこちらから。

 ナターリアは、元警察官だという。職業柄でも、もともと政権寄りという部分はあっただろうが、彼女の意見はほかの同世代の人々とそう大きく変わってはいなかった。

 彼女はさらに続けた。

「欧米はロシアの政権を交代させたいのだろうが、そのようなことは決して起きない。大統領は、これだけ支持されている。ロシアは今、〝生き抜く〟ための戦いをしているんだ」

 彼女は、戦争行為に賛成しているのではないという。しかし、ロシアが生き延びるために〝やむなく〟戦争に打って出たプーチン大統領を支持するというのだ。さらに、ロシアが戦っている相手であるウクライナ軍は、ナチスと同類だという。

 このような論理の組み立てで、彼女の心には「戦争には反対」しつつ、戦争をしたくないが、ロシアを守るために〝やむなく立ち上がった〟「プーチン大統領を支持する」という、現実的には大きく矛盾したふたつの事柄が併存していた。

[第3回 なぜロシア人は「ウクライナはナチス」と信じるのか? モスクワで見た、プーチン政権の「歴史」と「戦争」の歪んだ教育……ソ連の栄光を学ばせられる小学生(3月3日公開)へ続く]

<第1回>【ロシア人の本音】「戦争賛成が8割」の裏で動員に怯える18歳、国外脱出する人々、圧殺される反対の声 ……記者は戦時下のモスクワへと飛んだ
<第2回>【戦時下のモスクワ】国外脱出でしぼむ若者の声 開戦4カ月で市内の反戦ムードが沈静化した理由 根強い中高年層の「戦争賛成、プーチン支持」の現実
<第3回>なぜロシア人は「ウクライナはナチス」と信じるのか? モスクワで見た、プーチン政権の「歴史」と「戦争」の歪んだ教育……ソ連の栄光を学ばせられる小学生
<第4回>「ブチャはフェイクだ」陰謀論に染まったロシア人の30年来の友人、彼とともに現れた〝特務機関員〟らしき男……ロシア社会が「ウクライナ=ナチス」論を受容する背景とは
<第5回>【プーチン登場前夜】氷点下20度の中で食べ物や家財道具を売って糊口をしのぐ老人たち 道端には息絶えた人々も ソ連崩壊後のロシアを襲った地獄の90年代
<第6回>【プーチンが支持される理由】「エリツィンは欧米の手先」GDPマイナス14.5%の経済崩壊でロシア人が抱いた民主主義への失望 そして「独裁=安定」のプーチン登場へ

   
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