2024年5月20日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年3月8日

 ドイツの防衛問題専門家によれば、欧州は、米国の助けなしに通常戦力によって戦われる紛争でロシアから欧州を守ることはできないであろう。軍需産業の関係者は、ポスト冷戦期に衰退し、ウクライナ救援のために武器庫が目減りしてしまった軍を再建するためには10年を要し、まずまずの状況に持って行くためだけでも3、4年間、軍事予算と軍事生産を拡大する必要があると指摘した。

 確実性と安定性を作り出すためには、軍事予算の拡大が必要であるが、NATOは新たな高い目標を掲げるかどうかをまだ議論している状況である。「欧州の共通防衛はまだ願望に止まっている。気持ちだけでは十分ではない。実際の行動が求められている」と欧州の識者は指摘する。

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米国抜きのロシア対抗

 ウクライナの戦況、米国の政治状況を踏まえて、欧州は米国が当てにならない中でどのように自らを防衛するかの問題に直面していることを指摘する論説である。米国大統領選挙におけるトランプ当選の可能性が一つの要素であるが、それだけではなく、米国の連邦議会での分断によって対外支援について国論がまとまらない状況が拍車をかけている。

 当面の問題は、米国の対ウクライナ支援が滞る中、欧州がそれをどの程度、肩代わりできるのかであるが、より根本的で厳しい設問は、ロシアの侵略がウクライナで止まるとは思えない中、米国の助けなしに欧州はロシアから自らを守ることができるか、である。

 理論的な可能性として、欧州が米国抜きにロシアに軍事的に対抗することを考えると、少なくとも次の五つの要素が不可欠と思われる。①継戦能力を備えた通常戦力、②多様なレベルのエスカレーションに対応できる核戦力、③軍事的・政治的リーダーシップ、④モラルが高い大規模な戦闘人員、⑤不正規戦から電子戦までの幅広い戦線で戦うことができる練度の高い軍事組織。

 この論説では、これまでの米欧間の議論の経緯もあり、①の通常戦力を拡充するための軍事予算確保に焦点を当てているが、それを本格的に進めるには時間がかかる。さらに、これはロシアに軍事的に対抗するための必要条件ではあろうが、十分条件であるわけではない。前記の項目はいずれについてもかなりハードルが高いと言わざるを得ないが、特に難度が高いのが、②の核戦力と③のリーダーシップであろう。

 核戦力について言えば、欧州では英仏の核戦力があるが、まず、自国の存亡の危機のためではなく、欧州の共同防衛のために動員できるかの点がある。さらに、地域的な危機に際する多様なエスカレーション・シナリオに対応できるような核戦力構成になっていない。


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