一口噛むと、ごま油で炒めたシャキシャキとしたレタスが小気味よく響く。小誌記者が頂いた静岡県袋井市の学校給食には、袋井市内の農作物がふんだんに使われていておいしく、思わず顔がほころんだ。
「ミルメークが出た」、「ヨークというのむヨーグルトがあった」──。学校給食の話題は大人同士でも思い出話として盛り上がることが多い。文部科学省による令和3年度学校給食実施状況等調査では、国公私立学校における学校給食の実施率は95.6%に上る。
あまり知られていないが、学校給食の歴史は古い。1889年に山形県鶴岡町(現・鶴岡市)の小学校で、生活が苦しい家庭の子どもたちに無償で昼食を用意したことがその始まりとされる。その後各地に広がり、1954年に学校給食法が成立。長期にわたり子どもたちの成長を支え続けてきた。
そんな学校給食がいま、〝静かな危機〟に直面している。ロシア・ウクライナ戦争による物価高の影響で、学校給食の中身に変化が見られるからだ。
「物価高で真っ先に削られるのがデザート。おかずは少し小さな魚に変更するなど、価格と質を吟味して学校に卸すようにしている」と語るのは、学校給食への食材の卸売業を営む海幸水産(埼玉県さいたま市)代表取締役の深井勇哉氏だ。「さまざまな種類の魚を食べてほしいが、物価高の中、給食費による制約があるとなかなか難しい。このしわ寄せを受けてしまうのは子どもたちだ」。
学校給食法に基づき、学校給食にかかわる「食材費」は保護者負担と定められている。そのため、給食費の値上げは家計の負担に直結する。こうした中、近年議論になっているのが「給食費の無償化」である。
無償化は、家計の負担減に加えて教員の負担減にもつながると言われている。給食費の徴収・管理は各学校が独自に管理する「私費会計」で行っている自治体も多く、保護者への支払い催促が教員の大きな負担となっている。 一方で、国は学校ごとに管理している給食費を、自治体が一括で管理する「公会計」化の推進もしており、横浜市や石川県金沢市など、既に導入している自治体もある。
そうした中、昨年4月に東京都葛飾区が東京23区内で初めて無償化に踏み切った。葛飾区教育委員会事務局で学務課長を務める羽田顕氏は、「各学校の私費会計口座に区から給食費の補助金を入れるという、既存の仕組みを利用する形で無償化に踏み切った。公会計化は良い面もある一方で、徴収・管理のシステム構築などのコスト、人的配置の問題もあり、すぐに実行に移せない面もある」と指摘する。
子育て政策に詳しい東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授は、自治体ごとではなく、国として一律の無償化をするべきではないかと話す。「無償化は、間違いなく子どもに使われる政策である。自治体が先行するこの取り組みが、国として一律の政策につながればいいが、楽観はできない。今後の世論などにも左右されると思う」。