通貨切り下げは、税金に加えて国民から資金を引き出す秘密の方法である。政府から供給業者や公共事業への支払いも実質的に価値を失う。
従ってインフレは、多額の負債を抱える政府にとっては好都合だが、それ以外の人々にとっては不利な条件となる。もしかすると、カプート経済相やかつての失敗政権からの再就職組は、ペソ印刷機を持たない政府の一員であることを恐れているのかもしれない。
ミレイが受けた変革の授権は永遠に続くものではない。インフレ解決に時間がかかればかかるほど、別の問題が生ずる可能性が高くなる。
アルゼンチンが繁栄を取り戻すには、銀行システムにドルが流入する必要がある。それは ミレイが為替、資本、貿易の規制を撤廃し、国民が選んだ通貨で貯蓄、投資、ビジネス、消費ができるようになれば実現する。アルゼンチンが自らをドル化することになる。
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持続可能性はない
この論説は、ミレイ大統領のとりあえずの経済対策が一定の効果をもたらしていることを評価しつつも、インフレの継続や景気後退の兆候から持続可能性が無く、国民がいつまで耐えられるかは疑問であり、早期に為替、資本、貿易の規制を抜本的に緩和すべきと主張している。
しかし、そのような措置を実施するには議会の協力が必要であるが、ミレイが既成政治家を過度に攻撃する政治姿勢が障害となり、むしろ自らの手を縛っているようにも見える。ミレイは、議会対策よりも各州知事の協力を得る方向に重点をシフトしたが、引き続き議会での支持基盤を拡大することと、市場や投資家の信頼を得る努力が必要であろう。
ミレイは、昨年12月、財政支出削減と経済の自由化を目指して、緊急政令を発令し議会に664条からなるオムニバス法案を提出して1000項目以上にわたる規則の改正を目指した。緊急政令は、両院で拒否されない限り効力を維持することができ、現在まで拒否はされていないが、オムニバス法案については、一時期100項目の修正を行う妥協も試みられたが、ミレイは法案の骨抜きを嫌い、最終的には議会の承認を得ることなく会期末を迎え、不成立に終わった。
この間、昨年12月に発出された緊急政令等による財政支出削減やペソの切り下げにより、1月に入りインフレは鈍化し、月次ベースでの財政収支はほぼ均衡し、外貨準備も増加し、為替の闇レートは安定していると伝えられる。これは、これらのとりあえずの措置の効果として通貨量が大幅に縮小した結果であり、また、輸出促進と輸入規制の効果である。種々の補助金削減とインフレで最も打撃を被る最貧困層に対しては、食糧支援や児童手当増額などで、個別にその痛みの緩和に努めている。