2024年5月17日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年4月5日

 首脳会議後の軋轢には他の理由もある。マクロンの「ミサイル連合」形成の主張はドイツにタウルス・ミサイル(ケルチ橋攻撃に特に向いている)供与を促す努力の一環と見られるが、ショルツはタウルス供与がエスカレーションにつながるとして抵抗している。

 タウルスがクリミアやロシア国内の都市を攻撃できるという技術的理由だけでなく、その使用をモニターするためにドイツの兵員を派遣する必要が出てくるとのショルツ自身の信念(この点には激しい争いがある)もある。また、ドイツの懸念には、もしタウルス供与が憲法裁判所で争われることになれば、独の支援全般への支持を損なうというものもある。

 ショルツは、「いかなる時点においても、また、いかなる場所においても、ドイツの兵員がタウルスの攻撃目標にリンクされてはならない」と強調している。理論的にはドイツがタウルスを英国またはフランスに送り、英仏の要員がその使用をモニターするということも可能ではあるが、実際にはそれに必要な信頼関係が欠落している。

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ロシアへ与えた戦略的明快さ

 地上兵力派遣についてのマクロン発言を含め、最近の対ウクライナ支援を巡る独仏間の応酬は「見苦しい」(上掲解説記事)だけではなく、有害である。フィナンシャルタイムズ(FT)は3月6日の社説で、「優先順位はウクライナが今年、必要な武器(砲弾、巡航ミサイル、戦闘機、対空防衛など)を入手することであり、仏独の最近の批判の応酬(相手の支援が不十分)は、内容的には当たっている部分もあるが、非生産的な脇道の議論である」と断じているが、その通りであろう。

 マクロン発言への論評は当然のことながらおしなべて厳しい。FTは3月6日の社説で、「ロシアの攻勢に対してウクライナへの支援を強化する必要があるとのマクロンの基本的メッセージは正しいが、それは兵員でなく武器を送ることによるべきである」「マクロン発言は同盟国を不意打ちし、特に独との間で戦略的な亀裂を明らかにした」と批判した。

 また、同日のドイツの有力紙Frankfurter Allgemeine Zeitung の論説(Nicholas Busse 外交担当編集人)も、「NATO加盟国のほとんどがウクライナに兵員を派遣する用意がないことをロシアに知らしめることとなり、戦略的曖昧性どころか、むしろ戦略的明快さをもたらした」「ウクライナが必要としているのは美辞麗句の連射ではなく、弾薬と武器である」とコメントしている。


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