12日、北京で開催されていた三中全会が終了した。中国の今後を左右するともいわれるこの重要会議の開催前、天安門広場では車両の炎上が、山西省太原では連続爆破事件が起きたが、いずれも依然、詳細は不明なままだ。本稿では、とくに天安門での事件に関連して、容疑者であるとされたウイグル人側の現状をも探るべく亡命ウイグル人のリーダーへのインタビュー内容も交え考察してみたい。
共産党のビル周辺を狙った連続爆破でも
「テロ」とは言わない
「三中全会の数日前、太原(山西省)で、共産党の建物を狙ったと見られる連続爆破が起きましたが、中国当局はただの一度も『テロ』という言葉を使っていません。しかし、ウイグル人が何か起こしたと彼らが発表するときにだけ、『テロ』というのです」
筆者の電話取材に対し、ウイグル人人権活動家ラビア・カーディル女史は憤りを隠さなかった。憤るのは女史だけではない。先月末の天安門での車両炎上事件後、在日ウイグル人はもちろんのこと、欧州、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど、世界各地のウイグル人に話を聞いたが、皆、異口同音に「なぜ、あれがウイグル人による『テロ』なんだ?」と怒りを露わにした。
ラビア・カーディル女史については、当コラムでも過去に2度、インタビュー記事を寄稿したのでご記憶の向きもあろう(※)。「ウイグルの母」と呼ばれ、ノーベル平和賞の候補に複数回名が挙がったこともある著名な活動家である。2005年、中国の刑務所から釈放されて米国へ亡命した後は、ワシントンDCを拠点に活動している。06年からは、亡命ウイグル人の国際的組織「世界ウイグル会議」(本部:ドイツ・ミュンヘン)の総裁をも務めている。
ラビア女史は過去5回、日本を訪れている。最初の来日時から一貫して訴えていることの一つに、「『ウイグル人はテロリスト』という誤ったレッテル、中国政府によって貼られたレッテルを信じないでほしい」ということがある。
以前も当コラムで書いたが、9.11の後、米国が「テロとの戦い」という大キャンペーンを展開するなかで、中国政府はこのキャンペーンに便乗し、政府に批判的なウイグル人らに「テロリスト」のレッテルを貼り、ウイグル弾圧を正当化してきたという経緯がある(*)。
今回の天安門での事件後にも早い段階で中国政府は、「ウイグル独立派によるテロ」という表現を使ったが、ラビア女史をはじめとする世界中のウイグル人らは、「これが事実上、ウイグル弾圧強化の号令となるのでは」と深刻な懸念を寄せている。
※【カーディル議長 独占取材】 ウイグル弾圧の実像
ラビア・カーディル総裁に聞く ウイグルの「いま」(前篇)
ラビア・カーディル総裁に聞く ウイグルの「いま」(後篇)
*ウイグル人は「テロリスト」なのか?