2024年7月16日(火)

Wedge2024年4月号特集(小さくても生きられる社会をつくる)

2024年5月19日

 飛騨市農業振興課担い手支援係長の葛谷智徳さんも「住民の方々の間でもいろいろな考え方の違いや温度差はあります。ただ、こうした議論ができたことが大きな一歩だと思います」と、前向きにとらえている。

未来への種まき

 小さくなることを前向きにとらえ、生き残っていくための取り組みも始まっている。それを担うのが、住民の日常生活の困りごとなどに寄り添う集落支援員の屋比久晃平さんと古田崚さんだ。

 26歳の2人は岐阜県内の大学の同級生で「自然好き」ということで飛騨市の公募に応じ、昨年の4月から集落支援員になった。

 今注力しているのが、「手間をかけなくても農地を維持すること」だ。耕作放棄地になってしまうと、そこに雑草などが生えることで、鳥獣の絶好の隠れ場所になる。また、笹など根の強い植物が繁殖すると、農地に戻すことも難しくなる。

 そこで、耕作放棄地で「ノブドウ」の栽培をはじめた。この植物は、田んぼなどと違い、手間をかけずに栽培することができるという。この収穫したノブドウを焼酎付けにしてエキスを飲用や傷薬として使えるようにした。実は、もともとこの地域に伝わる製法なのだが「こんなに簡単なら、やってみよう」と、他の住民に思ってもらうことが狙いだ。「将来的には事業にすることができたら」と、屋比久さんたちは夢を膨らませる。

左から古田さん、屋比久さん、柳さん、葛谷さん

 バッドシナリオを考えて悲観的になるのではなく、そこから現実的にできることを考える。畦畑集落の取り組みは、多くの過疎集落にも参考となるはずだ。

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Wedge 2024年4月号より
小さくても生きられる 社会をつくる
小さくても生きられる 社会をつくる

全都道府県で人口が減少――。昨年7月の総務省による発表に衝撃が走った。特に地方においては、さらなる人口減少・高齢化は避けられない。高度経済成長期から半世紀。人口減少や財政難、激甚化する災害などに直面する令和において、さまざまな分野の「昭和型」システムを維持し続けることはもはや限界である。では、「令和型」にふさわしいあり方とは何か――。そのヒントを探るべく、小誌取材班は岩手、神奈川、岐阜、三重、滋賀、島根、熊本の7県を訪ね、先駆者たちの取り組みを取材し、「小さくても生きられる社会」を実現するにはどのようなことが必要なのかを探った。


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