2024年7月16日(火)

World Energy Watch

2024年5月31日

 そして世界の再エネ導入量で圧倒的シェアを占める中国では石炭火力が電力供給の根幹を依然として握っており、それがゆえにエネルギーの安定供給を損なうことなく再エネの導入拡大が可能となっていることは本稿が示した通りである。この事実を踏まえると、石炭火力を廃止し、再エネで取って替えるという世界的な潮流があるわけでは全くないと結論付けることが出来よう。

 上記のメディアの記事中で言及されている「石炭の廃止を目指す有志国連合」なども米国を除けば加盟国のほとんどが石炭の主要消費国「でない」国々で構成されており、消費量ゼロの国も多い。率直に言えば石炭の重要性を認識する機会もない国々や自治体が集まって勝手なことを言っているだけの組織である。

石炭火力は廃止よりも低・脱炭素化を目指すべき

 G7広島サミットやCOP28でわが国が表明した「多様な道筋による(再エネ偏重でないという意)ネットゼロ」、「脱炭素・経済成長・エネルギー安全保障」の同時実現を目指し、火力の低炭素化、ゆくゆくは水素・アンモニア燃焼、あるいは二酸化炭素回収・貯留(CCS)による脱炭素を実現しようとする路線に再び立ち戻るべきだ。

 欧州、特にドイツが脱原発と石炭火力の一部廃止を断行する一方、エネルギー価格の高騰で経済成長に悪影響を及ぼしている状況を見ると、G7が石炭火力廃止を進めたとしても自らの経済を破滅させるだけで、それを見て他の国々が追随することはあり得ないだろう。

 G7の独りよがりでなく、中国はじめ途上国が受け入れることができる対策こそが結局現実として効果的な気候変動対策ということになるはずだ。石炭火力の低・脱炭素化こそが、現在は技術面でも経済性の面でも課題は少なくないが、今後のイノベーションを通じてその役割を果たすことが期待される。

 わが国は、その推進のプラットフォームとしてアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を23年3月に設立し、COP28閉幕1週間後には首脳会議を開催した。理念ばかりでなく、現実に取り組みが進んでいることは大いに喧伝すべきであるし、現状の加盟国は日本と主に東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国であるが、そこに中国が加盟すれば世界の気候変動対策を進めるうえで大いに力を得ることになるだろう。

 先の日本メディアの言い分によれば先行国に差を付けられているとされるわが国は実際には、太陽光発電の世界シェア7.7%で世界第3位と立派に脱炭素先行国のひとつである。しかし国土面積当たりの太陽光導入量でわが国は既に世界最大となっており、既に適地には導入しつくして今後の新規導入分の効率は低下する見通しである。

 昨今は居住地近くでのメガソーラー建設による土砂災害・火災の恐れ、あるいは阿蘇や釧路湿原など自然豊かな地域での環境破壊など日本各地で問題が指摘されることとなっている(以前ならメディアや環境NGOが大騒ぎしたはずの案件だが何故ダンマリを決め込んでいるのだろうか)。また風力については陸上風力も中国や欧州と異なり一向に導入コストは低下せず高止まりし、洋上風力に至っては依然として中国の導入コストの3倍程度という割高な水準である。

 中国が世界的に見て圧倒的な規模で再エネの導入を拡大できるのは太陽光も風力もその設備の生産基盤を国内に有し、国内への供給はもとより高い価格競争力で以て海外に輸出することでグリーン成長にある程度成功している好循環があることが大きい。わが国の再エネ設備メーカーは凋落して既に久しく、再エネ導入の国内産業への波及は非常に少ない。

 火力についてもわが国産業の競争優位は失われつつあるが、いまならまだ反転攻勢が可能かもしれないと一縷の望みは残っている。真にグリーン成長を目指すのであれば、わが国は火力の低・脱炭素化にこそ賭けるべきだ。次期エネルギー基本計画は再エネバイアスで歪んだ「世界の潮流」に惑わされることなく、現実的でかつわが国の国益に資する内容となるように議論を注視しなけばならない。

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