2024年11月21日(木)

World Energy Watch

2024年5月31日

中国政府も石炭火力の役割を再評価

 21年秋、中国が全国の3分の2の省で停電を含む深刻な電力不足に見舞われた引き金は、水力と風力の大幅な出力低下であったことは動かしがたい事実である。それに対応して中国政府はエネルギーの安定供給という観点から石炭火力の重要性を再認識している。

 火力への設備投資額は2000年代に入ってからほぼ一貫して減少を続け、20年には568億元の大底をつけた。しかし21年からは再び増加し始め、23年は20年の81.2%増となる1029億元にまで回復した。

 また火力の設備稼働率も20年の48.1%から23年には50.9%にまで(04年の68.4%には比べるべくもないが)上昇している。中国の電力需給バランスに石炭火力の果たす役割は近年むしろ増大しているのである。

 以上の状況を踏まえると、今年24年から26年にかけて中国で石炭火力による発電量が減少に転じるというIEAの見通しは極めて蓋然性の低いものである。もし実現する可能性があるとすれば、中国経済の不振がさらに深刻化し、発電需要がほとんど伸びない、あるいは減少するというシナリオが現実化した場合のみであろうが、少なくとも26年までにそうした事態に陥ることはないだろう。

欧州の非現実的シナリオに振り回されるな

 筆者がエネルギー研究に従事し始めた90年代半ば、IEAと言えばエネルギー研究の総本山のような位置づけであり、IEAが毎年発行する『世界エネルギー見通し』(World Energy Outlook)は世界のエネルギー需給の現状と今後を展望し、エネルギー関連のアジェンダを理解する上で確認必須のバイブルであった。それから30年を経て、IEAが客観的なスタンスを放棄して、環境原理主義に迎合し煽動する報告書を出すまでに堕してしまったことは非常に残念である。

 IEAの堕落は気候変動交渉で非現実的な主張を繰り広げる欧州の言動に影響されたものなのだろう。先日4月28日~30日に開催された主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合においても欧州の画策で、排出削減対策のない石炭火力を30年代前半あるいは産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えられる時間軸で廃止するという共同声明が出された。

 これを受けて、一部メディアは、先般議論が始まったわが国の次期エネルギー基本計画で石炭火力廃止の道筋を定め、再エネの拡大を進めなければ先行国との差は拡大するばかりで取り返しがつかなくなるなどと主張するものもある。毎度おなじみの「世界の流れに乗り遅れるな」という主体性のない主張であるが、そもそも世界の流れに関する認識自体、間違っている。

 世界で再エネの導入拡大が進んでいることは間違いないが、実際のところそれは一部の国々においてのみ、である。なかでも中国は世界最大の再エネ導入国であり、太陽光の設備容量は世界全体の37.3%、発電量で同32.3%、風力も設備容量は同40.7%、発電量で同36.2%と一国で非常に高いシェアを占めている(いずれも22年)。

 すなわち、世界の再エネのおよそ4割が中国一国によって導入されているのが実情である。風力発電量の欧州と北米のシェアは49.9%、太陽光は36%であることも踏まえれば、再エネの大半が中国と欧米諸国において導入されているに過ぎないことが理解できよう。


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