2024年7月16日(火)

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2024年6月7日

欧米で普及している理由

 しかし一方で「補聴器のイメージは日本だけが悪いのか?」という視点で掘り下げていくと、また違う事実と解決策が見えてくると小川先生は指摘する。

「欧米も同じような条件下にあるのに、普及が進んでいるわけです。では、日本と何が違うのかと見ていくと、販売形態と費用の2つが大きく違うという事実に行きつきます」
 つまり、先の(3)「が何の規制もなくどこでも買える」点と、(5)「補聴器が高額である」という点だ。

「欧米では、補聴器は国家資格を持つ専門家が扱うものなのに、日本では特に決まりがありません。そのため、様々な販売形態で売られているのが現状で、結果的に補聴器を買っても満足できない人たちを生み出しています。

 もう一つの費用に関しては、補聴器普及が進んでいる各国は公的機関による助成金があり、個人の負担額はかなり少なく抑えられています」

 つまり補聴器のイメージが悪いのは、元々良いイメージを持っていない人に、それを覆す良い印象を与えられていないことも関係しているのではないかという話だ。

「JapanTrak2022記者発表資料」。なお公的助成に関しては、別回で言及する 写真を拡大

 しかし、「使えば、本当に聞こえが良くなるとわかっていたら?」「値段も高くなかったら?」――普及を妨げる原因が減り、それまでのイメージさえも覆されるのではなかろうか(なお、私自身は補聴器に悪いイメージはないし、ワイヤレスイヤホンに慣れた昨今の若者たちはさらに抵抗感が少ないと思う。将来的にはワイヤレスイヤホンと一体型の補聴器もできるかもしれないし!)。

 実際、「JapanTrak2022」によれば、専門家を介して購入している人たちの満足度は64%と高く、「もっと早くから購入していれば良かった」という声も多い。つまり、専門家を介するか否かで、補聴器の満足度は大きく左右されるのだ。

販売に資格がいらない

 ということで、続いて(3)にあげた販売形態の問題を見ていこう。

 一般の私たちは余り考えることのない話だが、補聴器は管理医療機器である。しかし、販売に関してなんらかの規制があるわけではないらしい。

「補聴器は管理医療機器ですが、管理医療機器としての適合性が担保されない状態で売られているのが現状です。管理医療機器としての適合性というのは、その人の難聴に合った補聴器であるかどうかということ、さらに補聴器を適切に使うための調整とトレーニングがきちんと行われているかどうかということです。日本では、こうした管理医療機器としての視点がないがしろにされていて、いわば売りっぱなし、売られっぱなしの状態になっているのです」

 私もこの度初めて知ったのだが、補聴器を使いこなすためには、適切な補聴器を選ぶのはもちろん、その後、数度にわたっての調整や一定期間のトレーニングが必要になるらしい。
なぜかというと、補聴器とはそもそもが、「つければ」「すぐに」「聞こえを良くしてくれる」ようなものではないからだというのだ!

「JapanTrak2022記者発表資料」 写真を拡大

 補聴器を所有している人たちの購入ルートを調べてみると、メガネ店や家電量販店、さらに通販やインターネットなどを通じて購入する人たちがおよそ4割程度いるとわかる。途中で「あきらめた人たち」を加えると、もっと多いかもしれない。

 そしてどうして専門家を介さずに補聴器を買ってしまうかというと、補聴器に調整やトレーニングが必要とは思ってもいないからだろう。もちろん、もう一つの大きな問題、金額も関係するとは思うものの、いくら安くても「使えない」ものを買おうとする人は余りいないと思うので。

 しかし、ではなぜ聞こえを良くするのに、「適切な補聴器を選び」、「適切に調整し」、「トレーニングすること」が必須なのか。

「それは、言葉は耳ではなく、脳で聞いているからです。補聴器を使って聞こえを良くするためには、脳のトレーニングを行う必要があるのです」

 ……脳のトレーニング! 

 いったいどういうことなのか? 次回、詳しく掘り下げる。(続く)

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