バイデン陣営の討論会日程への戦略
まず、両候補が討論会開催合意に至った経緯をみると、早くから直接討論を呼びかけたのは、トランプ氏の方だった。
各地の遊説先で「いつでも、どこでも無条件でディベートに応じる用意がある」とアピールしてきた。
これに対し、バイデン陣営はしばらくの間沈黙を守ってきた。このため一時は、投票日前までに実際に討論会自体が開かれるかどうかについてさえも、疑問符がつけられてきた。
しかし、ようやく5月15日になって、ホワイトハウスから開催時期、場所、回数、司会役のTV局について具体的方針が明らかにされた。
第一回討論会は27日、南部ジョージア州アトランタのCNN・TVスタジオ内で、第二回は9月10日、ニューヨークのABC・TVスタジオ内で、いずれも一般聴衆を入れず司会者を挟んだ直接対面の形で行われる。
こうした経緯からすると当初は、トランプ陣営側がディベート開催に関する限り最初から押し気味で、バイデン陣営はやむを得ずこれに応じた感が否めなかった。
しかし、内情は必ずしもそうとばかりは言えない。この点について、英BBC放送は去る5月17日、「バイデンがトランプとの6月のディベートを好感する理由」と題する在米ベテラン特派員の以下のような解説を流している:
「バイデンは一時、ディベートに躊躇しているとの見方があったが、もし、拒否した場合、1972年、ニクソン大統領がこのプロセスを完全無視して以来の汚名を着せられるだけに、初めから応じる構えでいた。ただ、どのような形で行うのが自らにとって最も有利になるかについて、側近たちに検討させてきた。むしろ主導権を握って来た」
「その結果、討論は二回だけに限定し、しかもその司会は、一回目はCNNテレビ、二回目はABCテレビと、いずれも良識的報道で定評のある2局を指定した。“トランプ放送局”とも揶揄される超保守派のFOX NEWSによる司会は回避された。しかも、トランプと対峙した2020年大統領選当時のディベートでは、会場に聴衆が入り、バイデンの発言途中でトランプ支持派がヤジを飛ばし、トランプに大声で声援を送るなどして論議が中断したりしたことから、今回は聴衆抜きとした」
「開催時期についても、一回目を例年より3カ月も早い6月としたのも、周到な打算がある。すなわち、両候補がそれぞれ民主、共和両党の正式候補として指名される夏の全国党大会前であり、全米有権者に対し「バイデン VS トランプ」の二者択一の鮮明なイメージを印象付けることを意図したものだ。バイデンの側近グループは、討論会の場で、常軌を逸したトランプ政権の再来の可能性を数千万人のテレビ視聴者に想起させ、その余勢を駆って党大会に臨むことを期待している」
「さらに万が一、第一回討論会でバイデンがトランプにやり込められ劣勢に終わったとしても、ロナルド・レーガンからバラク・オバマにいたるまで現職大統領が再選の際にそうであったように、その後の全国党大会、そして11月投票日に向けての最後の選挙戦で、慎重に態勢を立て直す時間的余裕が残されている。もちろん、10月時点での選挙戦でバイデンがトランプに大きくリードを許していた場合、9月に予定される第二回目が最後の討論会となるだけに、挽回の機会を逸するリスクはある」