2024年11月22日(金)

一人暮らし、フリーランス 認知症「2025問題」に向き合う

2024年8月9日

2つ以上の行動が有意義

 その研究とは、国立長寿医療研究センターが2019年から名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学、東京都健康長寿医療センター、SOMPOホールディングス株式会社と共同で行ってきた『J-MINT研究』である。連載第5回でもこの研究について触れたが、詳しく書いていなかったので改めてご紹介する。

 『J-MINT研究』とは、認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究(Japan multimodal intervention trial for prevention of dementia)のことで、具体的には、生活習慣病の管理、運動、栄養指導、認知トレーニングからなる『多因子介入プログラム』が認知機能の低下を抑制できるかを検証したものである。「J-MINT研究」HPはこちら

J-MINT研究では「生活習慣病の管理・運動・栄養指導・認知機能訓練」の多因子プログラムを実施した。(資料提供:国立長寿医療研究センター)

「J-MINT研究では、認知症のリスクを持つ高齢者を対象に生活習慣病の管理、インストラクターによる運動教室、栄養士による栄養指導、タブレット端末を活用した認知トレーニングといった『複合的な認知症予防プログラム』を実施して、これらが認知症予防にどんな効果があるのかを明らかにしました。具体的には、65歳から85歳までの軽度認知障害を持つ高齢者531名を対象に、2019年から18か月間(1年半)プログラムを体験してもらい、日本で初めて多因子介入プログラムに認知機能低下を抑制する効果があることを検証しました。これらの結果は、わが国の認知症発症を減少させる大きな第一歩となることが期待されます」

 研究の成果は、2024年4月に世界アルツハイマー協会の国際学術誌『Alzheimer‘s&Dementia』に掲載された。

薬に頼らない抑制方法

 研究の意義は、大きくは2つ。

 ひとつは、薬に頼らないで「認知症を抑制できる」と示唆されたことである。

 認知症の新しい治療薬として去年「レカネマブ」が話題になったが、持っている遺伝子によっては副作用をきたしやすい人がいることもわかっている。

「アルツハイマー病患者の7~8割が持つというAPOE4保因者は、レカネマブの副作用が出やすいため、服用には注意が必要です」

 APOE遺伝子(アポリポ蛋白E遺伝子)」とは、アルツハイマー病の最も強い遺伝因子で、寿命とも関連するとされている。APOEには3つの遺伝子型APOE2、APOE3、APOE4があり、APOE4を持っているとアルツハイマー病になりやすくなり、APOE2を持っているとアルツハイマー病になりにくい。そしてAPOE4保因者はレカネマブの使用が難しいというのだが、「APOE4を持っている人にプログラムの効果が得られやすいことが明らかになりました」。

 この結果は、APOE4保因者には当然、明るいニュースだと思うが、APOE4保因者でなくとも副作用のリスクなどを考えたら、薬に頼る以外の選択肢があることは大きな光になると言えるだろう。

複数を行う重要性

 もう一つの大きな意義は、リスク低減の行動を「複数行う」重要性がわかってきたことである。

「J-MINT研究では、1つだけの介入と多因子介入との直接比較は行っていません。また、認知トレーニングは参加者の18%しかやってもらえなかったので、最初にお伝えした5つの要素『すべてがないとダメ』ということもありませんし、いくつ以上の介入が必須であるかはまだわかりません。

 ただし、従来の『運動だけ』や『食事だけ』の介入では、結果がばらついていました。また、複数を同時に行う研究は世界でも多く出てきており、全体を俯瞰すると、『多因子介入は有効である』と言って良いと考えます」
 
 つまり、認知症リスクを低減するためには上述の5分野のうちの「2分野以上の活動を行う」のが良さそうということだろう。

 では、それぞれの分野では何をどのくらい行えばいいのだろうか。

 次回、引き続き櫻井先生に教えていただくと共に、『認知症高齢者の将来推計』の調査を担当した九州大学・二宮先生にも、「認知症を回避するためのヒント」を教えていただいたので、合わせてご紹介する。(続く)

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