2024年12月7日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年8月20日

 5月の日中韓サミットで朝鮮半島の非核化が議論されたことにつき、北朝鮮は「重大な政治的挑発」だと非難。プーチン訪朝の際、金正恩はロシアを北朝鮮の「最も誠実な友」と呼んだ。これは暗黙の対中批判であり、冷戦時代に中ソを巧みに利用してきた北朝鮮の技巧を彷彿とさせる。

 表立って抗議することはないだろうが、中国は引続き二つの「ならず者」国家との三国間戦略協定から距離を置きたい。新華社は、「北朝鮮が短期間でロシアの経済克服に大きな力を提供することはできない」と書いた。それは中国の苛立ちを示す。

 経済について言えば、中国はプーチンにとり唯一の頼みの綱だ。プーチンとの個人的な関係を誇る習近平にとって、最近の朝露関係の緊密化は国家運営において(個人の)友情はほとんど意味を持たないということを思い出させる。「限界のない」協力を謳う中ロにあってもそうだ。

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目下の勝者は?

 プーチンは6月19日訪朝、金正恩と首脳会談を行い、包括的戦略パートナーシップ条約に署名した。23条から成る条約の第4条は、「どちらか一方が、武力侵攻を受け、戦争状態になった場合、遅滞なく、保有するすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」と規定する。

 それは、かつてのソ朝友好協力相互援助条約(1961年締結、冷戦後の1996年に破棄・失効)の拡大、復活を意味する。北太平洋の安保環境に新たな側面を加えるものだ。

 朝露接近と同盟条約の署名は、中国のみならず、ロシア、北朝鮮、韓国に種々の波紋や思惑を引き起こしている。

 このFT記事が指摘する中国の懸念は、想像に難くない。この記事は、その理由として、学者の沈丁立の見解を紹介、中国の心配は朝露新条約により中朝防衛条約がトリガーされ中国が不必要な紛争に巻き込まれるリスクへの警戒がある旨を説明、それへの異論もあると紹介している。

 沈丁立の議論は興味深いが、習近平の懸念がかかるレベルの思考に基づくようには思えない。習近平の苛立ちは、優れて権力政治レベルでの金正恩とプーチンに対する不満と見るべきだろう。

 金正恩が中露の間で巧みに振る舞い、プーチンはウクライナ戦争のための弾薬ニーズの弱みのために金正恩に接近したことに苛立っていると見るべきだろう。BBCによれば、中国側は、5月訪中したプーチン側に「中国訪問後すぐに北朝鮮を訪問するべきでない」と要求したという。


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