2024年10月10日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年9月2日

 中国のアナリストは、西側諸国が協調してロシア経済に制裁を科そうとしていることに特に驚いた。国際金融システムにおいて米国は依然として比類のない権力を握っていると結論づける者もいた。制裁が効き始め、ロシア軍がつまずくと、中国の学者たちは、戦略的パートナーとしてのロシアの貴重な地位が危うくなるのではないかと懸念した。

 しかし今日、中国の専門家の間では遥かに楽観的な見通しが支配的になっている。彼らは戦争への西側諸国の対応が、多くの人が予測したほど悲惨な結果をもたらさなかったと指摘している。中国のアナリストの多くは、プーチン大統領の北朝鮮ほかへの最近の訪問や、モディ首相の訪露を挙げ、ロシアは外交的孤立を真に回避したと主張している。

 この見方によれば、中国はプーチンの戦争努力を支えるために、大きな経済的・外交的代償を払うことを回避したことになる。西側諸国の制裁を乗り切るロシア経済の能力は、多くの中国の学者に感銘を与えた。この戦争は「ロシアの軍事産業の全面的な回復」につながったと指摘する者もいる。

 こうしたことは、台湾に対する中国の計画にとって非常に重要な意味を持つ。ウクライナでの戦争を見て、西側諸国は紛争には耐えられず、経済的コストが高ければ侵略軍に対峙して民主主義国を守ることに疲れてくるだろうと、多くの人が結論付けた。

 この結論はしばしば誇張されており、恐らく米国の決意を過小評価している。しかし、彼らがこのような結論を出したこと自体が、台湾海峡、そして世界全体がさらに危険な方向に向かいつつある可能性を示唆している。

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中国の戦略を作る三つの要素

 米国をはじめとする西側諸国の対ウクライナ支援はしばしば遅延し、武器の最も効率的な使用を制限し、結果的に最近の戦況は総じて膠着またはウクライナ側の防勢という状態が続いている。また対露制裁の効果も、西側諸国が当初描いていたとおりの成果が期待したタイミングで得られている訳ではない。

 よって本件論文にあるように、ウクライナの戦争を細大漏らさず研究している中国のアナリストたちが、侵略に対する西側諸国の「抵抗力」の評価を下げて楽観論、つまりロシア支援方針の継続で問題ないと考えるに至った可能性は十分に考えられる。またそのようなパーセプションが広がることの危険性についても本件論文に完全に同意できる。

 ウクライナ戦争への対応における中国のもっとも基本的な戦略は、互いに関連し合う以下の三つの要素から成り立っていると考えられる。

 第一は、ロシアとの戦略的協力関係を維持するが、国際的には中立を装うことである。中国はロシアを事実上支持しながら、国際的にはこれを明言せず中立的態度を装っており、これは今日においても変わっていない。実際、中国はロシアとの二国間の会談では「支持」を明言しながら国際的にはこれを表には出さない姿勢を一貫して続けてきた。


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