2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年9月2日

 第二は、軍事面を含めロシアを支援するが、米欧との衝突はできるだけ避け、特に二次制裁は回避することである。この傾向は、対露制裁が厳しくなるにつれ一層顕著になる。

 最近では本年2月頃から、中国の複数の銀行がロシアとの人民元取引を停止したとみられている。これは昨年12月、米国が制裁対象とするロシアの軍需産業と取引していると見做す第三国の銀行に二次制裁をかけたことを受けたものである。 

 ロシアの輸出入決済に占める人民元の比率は今や約40%にまで膨らんでおり(本年5月露中央銀行報告書)、人民元取引の停止はロシアにとって深刻な痛手となる。それでも中国は取引停止に踏み切った。

 第三は、紛争解決に貢献する姿を国際社会に示すことである。ただそれはあくまで上記の第一、第二の戦略の範囲内にとどまる。

 2023年2月の「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と称する12項目、本年6月の「平和サミット」に先立って5月に公表された「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国とブラジルの共通の理解」の6項目はいずれも、主権や領土保全、ロシア軍の撤退というウクライナにとっての最重要課題が欠落しており、結果的にロシアの側に立ったアイデアでしかない。そして、ウクライナが推進した本年6月の「平和サミット」に、中国は自ら参加しなかったのみならず、第三国に不参加を慫慂(しょうよう)した。これは対外的にロシア寄りであることを示唆する行為だ。

 以上のいずれについても、ロシア寄りを基本としつつ、なおこれとの間に距離を置く「二股外交」の曖昧さがある。ただこの背景には「良いとこ取り」の意識だけではなく、この戦争の帰趨につきなお確信し切れない不確実性の認識がある。

ウクライナの帰趨が起こす台湾への影響

 ウクライナ戦争と西側の対応に関する中国の評価が、例えば台湾侵攻に対する判断に実質的な影響を及ぼすまでにはなお距離がある。その距離を埋める最大要因の一つは、この戦争の帰趨の見通しである。

 その意味でも、ウクライナを敗北させてはならない。ウクライナはなお戦いを続けている。この戦争が冷戦後の歴史的な転換点、それも良い方向への転換点となる可能性はまだ残されている。

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