2024年11月23日(土)

孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

2024年9月28日

肩書を捨て、集う意味

9時30分からミーティングが始まり、12時前には料理が完成する。バランスも良く、参加者はペロリと平らげていた

 「おとこの台所」は世田谷区社会福祉協議会が支援する『支えあいミニデイ』として活動していて、食材費や場所代、光熱費代として区の補助があり、1人500円で参加できることも魅力の一つだ。買い出し担当が食材購入する際は、どのスーパーでいくらで購入したかを共有している。まさに、会社員時代などに培った経験を活かした運営が行われている。

 デザートも食べ、幸せな表情が並ぶ団欒の中、各(地区)台所の厨房担当の講習会も兼ねて、反省会が行われた。「茄子の切り方がバラバラだと火の通りが偏るので気をつけたい」などの意見は各台所に持ち帰り、次に活かす。ただ楽しむだけではなく、「よりおいしく」という気持ちが感じられた。

 参加者に「おとこの台所」に入会してからの期間を聞くと、1年の人もいれば、5年や8年、長い人だと10年、20年という人もいた。なぜ続けられるのか。記者が締めの会で問いかけると、参加者から次のような答えが口々に返ってきた。

 「やっぱり、楽しいから」「自然体でいられるし、しがらみもないからね」

 定年後に肩書を捨て去り、今までとは全く違った環境で新しいことに取り組む。その理想形のような居場所が、ここにはあった。

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Wedge 2024年10月号より
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

孤独・孤立は誰が対処すべき問題なのか。 内閣府の定義によれば、「孤独」とはひとりぼっちと感じる精神的な状態や寂しい感情を指す主観的な概念であり、「孤立」とは社会とのつながりや助けが少ない状態を指す客観的な概念である。孤独と孤立は密接に関連しており、どちらも心身の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。 政府は2021年、「孤独・孤立対策担当大臣」を新設し、この問題に対する社会全体での支援の必要性を説いている。ただ、当事者やその家族などが置かれた状況は多岐にわたる。感じ方や捉え方も人によって異なり、孤独・孤立の問題に対して、国として対処するには限界がある。 戦後日本は、高度経済成長期から現在に至るまで、「個人の自由」が大きく尊重され、人々は自由を享受する一方、社会的なつながりを捨てることを選択してきた。その副作用として発露した孤独・孤立の問題は、自ら選んだ行為の結果であり、当事者の責任で解決すべき問題であると考える人もいるかもしれない。 だが、取材を通じて小誌取材班が感じたことは、当事者だけの責任と決めつけてはならないということだ――

 


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