2024年10月5日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2024年10月5日

これはSFではない!

 以前「ネットフリックス」の番組で、脳の意識をデジタル化することで、色々な体に乗り移ることができるというSFを見たことがある。意識をアップロードすることができれば、体は滅んでも生き続けることができる。そのようなことを本気でやろうとしている研究者がいると知って驚いた。しかも、方法論としてはもはや完成しているように読めた。これまでの研究で人間の脳を左右に切り離すと、2つの意識が現れることが分かっているそうだ。そこで、脳の半分を機械でつくった脳とつなげることで、意識を移し替えることができるというものだ。不老不死への挑戦が始まろうとしている。

金継ぎの器

ハイブリッド・ ヒューマンたち 人と機械の接合の前線から
ハリー・パーカー(著)、 
川野太郎(訳)
みすず書房 3300円(税込)

 イギリス軍兵士としてアフガニスタンに従軍した際、即席爆発装置(IED)を踏んで両足を失った筆者。しかし、憐みの声をかけてくれる人には怒りを感じた。「身体が損なわれたとしても、人間はそれに適応することができるはず」という思いで筆者自身、義足での生活に慣れるように努力し、障害をサポートする医療技術の現場を訪ねていく。そんな筆者が日本の技術である「金継ぎ」の器を最終章で紹介し、自分の姿と重ねる場面は感動的だ。

忘れることは必要不可欠

忘却の効用
スコット・A・スモール(著)、 
寺町朋子(訳)
白揚社 3080円(税込)

 「物忘れ防止の方法」──。このようなタイトルがつけられた書籍や記事は後を絶たない。本書では、そんな様々な情報とは一線を画し、「忘却」が持つプラス面について書かれている。脳には記憶を忘れる仕組みがあり、それは流動的なこの世界にとっては好都合である。感情の忘却は、私たちを苦痛や憤りのような負の感情から解き放ち、また、適度に忘れて記憶間の結びつきを緩くすることは、創造性にも関連してくるからだ。「忘却」の思わぬ大切さに触れられる書籍だ。 

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Wedge 2024年10月号より
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

孤独・孤立は誰が対処すべき問題なのか。 内閣府の定義によれば、「孤独」とはひとりぼっちと感じる精神的な状態や寂しい感情を指す主観的な概念であり、「孤立」とは社会とのつながりや助けが少ない状態を指す客観的な概念である。孤独と孤立は密接に関連しており、どちらも心身の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。 政府は2021年、「孤独・孤立対策担当大臣」を新設し、この問題に対する社会全体での支援の必要性を説いている。ただ、当事者やその家族などが置かれた状況は多岐にわたる。感じ方や捉え方も人によって異なり、孤独・孤立の問題に対して、国として対処するには限界がある。 戦後日本は、高度経済成長期から現在に至るまで、「個人の自由」が大きく尊重され、人々は自由を享受する一方、社会的なつながりを捨てることを選択してきた。その副作用として発露した孤独・孤立の問題は、自ら選んだ行為の結果であり、当事者の責任で解決すべき問題であると考える人もいるかもしれない。 だが、取材を通じて小誌取材班が感じたことは、当事者だけの責任と決めつけてはならないということだ――

 


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