足かせとなった一元化へのこだわり
地下鉄は莫大な初期投資を要し、その回収には数十年かかる長期的事業であり、株式会社という仕組みにはなじみにくい事業である。道路と似て公共インフラという性格が強いから税による補助金も多額に投入される。
国も都も50%の株式を売却することによって相当の収入をうることができる。国については、この収入は東日本大震災の財源とすることが法律によって定められている。一方、都についてはそのような制限はないため、有楽町線と南北線の延伸に対する都の負担金の支出に充当するなどの使途が予想される。50%民営化という今回の方針はひとつの知恵といえるだろう。
しかし、東京のインフラを高めるため、鉄道利用者の利便性を高めるためであるはずの延伸が先延ばしになってしまったのも事実だ。それは、都によるメトロと都営の一元化にこだわっていたことも大きな要因となっている。
一元化のメリットとして、乗り継ぎ料金が下がるとされているが、その減収分は都営・メトロ両路線全体の初乗り運賃等の値上げで補うことになる。乗り換えの改札をなくすなどサービス向上は、経営一元化しなくともできる。
そもそも両者とも既に巨大企業である。運営システムや意思決定のルールも違う。これだけの巨大企業の合併は安全確保上、危険でもある。
さらに、都営は70歳以上が乗り放題とする「シルバーパス」の制度に参加しているが、一元化後はどうするのか。都営が外れることはできないだろう。かといってメトロが参加するには大きな財源が必要となる。一元化の課題は次の世代に譲るのが現実的だ。
海外に比べ水準の高い東京の地下鉄を向上させるには
筆者はニューヨーク市の交通局長に時刻表を要求したら、「そんなもの持っていても意味ないだろう」と言われた。設備の更新が進まず定時運行が難しいからである。
ニューヨークの地下鉄が改善できないのは、上下分離によって、地下鉄インフラを州政府が所有しているからである。運行を担う市が改善を要求しても、州としては高額納税者が多く住む郊外の鉄道整備を優先せざるを得ない。
先頃、ニューヨーク州知事はマンハッタンに流入する自動車から混雑税を徴収しそれをニューヨーク市地下鉄改良の財源にする政策を決定し税を徴収する装置を各所に設置したが、結局無期限延期となった。
パリの地下鉄でバリアフリー化されている駅は9%しかない。筆者はこの点や歩車道段差解消についてパリの組織委員会に聞いたのだが今回のパリ五輪・パラリンピックにあたって、これを改善しようとする世論が盛り上がった様子はない。
東京の地下鉄は、海外諸都市の地下鉄に比べて、精緻に構築したネットワークの利便性、ダイヤの正確さ、安全、清潔さ、明るさ、バリアフリー化、トイレの設置など群を抜いてすぐれている。
これを維持しながら、さらに高めていくには、都営とメトロが競い合っていくことが必要だ。メトロの上場により、株主や利用者の目も入ってくれば、サービス向上への監視も強めまる。世界に誇る鉄道網の向上のために必要な制度が求められる。