2024年10月15日(火)

生成AI社会

2024年10月15日

電子ごみの急増、電力・水の大量消費

 「持続可能性」は、環境倫理と強く関わります。かつて倫理は、人間社会のことだけが念頭に置かれていました。しかし、人類が地球に及ぼした影響があまりにも大きくなるにつれ、地球環境への配慮が必要になりました。

 ほかの産業と同じようにIT分野も環境に大きなダメージを与えています。コンピュータ機器は大量に作られており、かつ変化が激しく寿命も短いので、廃棄される量もきわめて多くなっています。

 電子ごみ(E-waste)──スマホやパソコン、冷蔵庫などの電気回路の入った廃棄物──は、すでに国際問題に発展しています。電子ごみは、2019年に世界で5360万トン出され、2030年には7400万トンにまで増えると予想されています(*2)。

 AIについても同じです。機械学習には大量のマシンパワーが必要であり、新しく開発された性能の高いハードウェアに次々と乗り換えて開発されています。多くの電子ごみが発生します。

 さらに、大量の電力も必要です。2020年に発表されたGPT-3は、機械学習による二酸化炭素の排出量が552トン、エネルギー消費が1287MWhと推定されています(*3)。これは、家庭用の電子レンジ(500W)を257万4000台集めて1時間動かした電力量にあたります。

 開発の場面だけではありません。利用の場面でも生成AIは、環境への負荷が著しく高いといえます。AIを使ってテキストを分類するのに比べると、生成AIはテキストの生成や要約に20倍以上の電力を必要とします(*4)。

 特に画像生成AIは多くの電力が必要で、テキストの分類にAIを使うのに比べると、平均で1400倍以上の電力が必要です。電力効率の悪い画像生成AIであると、1枚の画像を生成するのにスマホを1回フル充電するほどの電力が必要になっています。

 電力だけではなく、水の消費量も膨大です。GPT-3のトレーニングには70万リットルのきれいな水が必要でした(*5)。データセンターのコンピュータを冷やすためです。発電のために使われた水も含めると、もっと多くの水が必要になります。

 今後、AIのニーズが高まれば、データセンターのコンピュータを冷やす水がさらに必要となり、膨大な電力の発電による水の消費量も上昇するでしょう。

 2027年にはAI関連で42億〜66億㎥の水が必要と推定されています。これはデンマークの年間総取水量の4倍〜6倍に達する量です。

 チリやウルグアイなど干ばつに苦しむ地域では、データセンターの建設に反対運動が起きています(*6)。そこに生きる人々が生きるための水がなくなってしまうからです。

 西洋では、人は自然の一部ではなく、人のために自然はあり、自然は利用して支配するものと考えられてきました(*7)。

 技術によりこれだけ大きな環境破壊が進み、先端技術であるAIもまた環境負荷が高い技術です。「持続可能性」とは逆の動きが強まっているとさえいえますが、今後、環境倫理を踏まえてAI開発等を行っていくことはますます強く求められていくでしょう。

 ここで先ほどの「人間中心」という言葉について念のため補足しておきます。人間中心という言葉はかなり強い言葉です。環境倫理や動物倫理が叫ばれるなかで「何を言っているのだ!」と怒りたくなる人もいるかもしれません。

 ただAI倫理の文脈では、AIと比較したときに人を優先しようといっているにすぎません。「持続可能性」を重視していることからわかりますように、何も自然をいじくり回してよいということではありません。

*2 Forti, V., C. P. Baldé, R. Kuehr , and G. Bel (2020) “The Global E-waste Monitor 2020”(accessed 2024-05-31)

*3 Patterson, D., J.Gonzalez, Q. Le, C.Liang, L-M. Munguia, D. Rothchild, D. So, M. Texier, and J. Dean (2021) “Carbon Emissions and Large Neural Network Training”(accessed 2024-05-31)

*4 Luccioni, A. S., Y. Jernite , and E. Strubell (2023) “Power Hungry Processing”(accessed 2024-05-31)

*5 Li, P., Y. Jianyi, M. A. Islam, S. Ren (2023) “Making AI Less “Thirsty””(accessed 2024-05-31)

*6 Feliba, David(2023)「AI基盤のデータセンター、「水の浪費」と中南米住民が反旗」(2024年5月31日アクセス)

*7 西垣通(2023)『デジタル社会の罠』毎日新聞出版
ラシュコフ、ダグラス(2023)『デジタル生存戦略』(堺屋七左衛門訳)、ボイジャー

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