2024年10月17日(木)

お花畑の農業論にモノ申す

2024年10月17日

 日本では、農家の平均年齢が70歳近いこともあり、いまだに携帯電話としてスマートフォンではなく、ガラケーを利用している人も多い。当然ながら、このような農家では、アプリ利用などソフト面は進んでいない。

 アジア各国の農家は政府からの補助の少ないことから「コスト」には敏感だ。彼らも「ソフトはハードに比べ、費用がかからず導入しやすい」と話す。このように、日本農業の今後の課題は、ソフトの利活用ではないだろうか? 

 アジア各国では、スマホ活用による土壌、栽培、市況、金融関係用アプリが公的機関などで開発され、農業現場で多くが無料で利用されている。業務でのソフト利用が遅れているのは、農業界に限ったことではないが、農業界は他の業界より、高齢化が進んでいるので、マイナス面が如実に出ているのかもしれない。

日本が進むべきソフト面の重視

 ソフト技術のなかで、有望な技術の一つが生成AIだ。短時間で的確な助言が可能で、労働の質を上げると期待されている。

 本格的利用が日本全体でも進んでいるが、農業界ではあまり普及していない。農業現場に行くと、生成AIの回答のうち、割合が高くはないはずの間違いに注目し、「不正確で農業では役に立たない」などのネガティブな声をよく耳にする。

スマホでのチャットGPT利用例

 生成AIは基本的にインターネット上の公開情報から回答を導く。農業界では農業技術などの情報が各組織内に囲い込まれ、オープン化されていない。このことが不正確な回答の一因であることを知る農業関係者は多くはない。

 また、QRコードなどを使ったトレーサビリティシステムも期待したほど進んでいない。日本では消費者も高齢者が多く、スマホでトレーサビリティを確認するより、生産者の写真などアナログの情報を重視していることも影響しているかもしれない。2024年4月より、政府が農産物の温室効果ガス削減状況の見える化のラベル利用を本格的に始めたが、それを使うにも記録をとることは欠かせない。

温室効果ガス削減と生物多様性保存を示すラベル(農林水産省ホームページより)

 日本でも、アグリノートをはじめ記帳ソフトなどには、ユーザーインターフェースの優れたソフトが開発されてきたが、まだ十分でないだろう。ソフト利用をさらに進めるために、研究機関などで高齢者が多い生産者でも使えるアプリの開発を進めて欲しい。

 ソフトの利活用推進には農家への普及教育も欠かせない。行政が農家を対象とした作業記録や生成AIの利用方法の講習等に力を入れていくことも必要だ。作業記録や生成AIなどのアプリは無料や安価なものが多く、日本の農家にも取り組みやすいに違いない。また、温室効果ガス削減ラベルは消費者にも自分が栽培した農産物の良さをアピールしやすい。

 現在、日本の農産物は品質の高さなどから世界で評価が高い。しかし、農家戸数の減少傾向に歯止めがかからないなかで、ハードだけに頼るのではなく、ソフトも利用して現状の農業生産を維持・発展させていく方法を考える必要がある。

 そのためには今まで不十分だった情報のオープン化を進め、比較的低コストで農業の生産性を高めると期待されるソフト面の利用を重視すべきだ。

 農産物の安全性や環境保全を示すためのソフト利用に積極的な農家割合が増えると、消費者からの信頼を高め、国産を選んでもらうことにつながるだろう。そのことが日本の農産物の競争力向上を高めるはずで、その対策を早急に打っていくべき時ではないだろうか。

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