現在、イランは制裁を理由に、石油輸出国機構(OPEC)プラスによる協調減産の対象外であるため、他産油国が増産を制限している期間を好機と捉え、産油量の拡大を試みている。24年8月、イラン経済評議会は34の油田での石油増産計画を承認した。OPECの月次報告書(※二次情報源)によれば、今年9月の産油量は約332万bpdを記録し、18年の対イラン制裁再開以後、最多となった。
制裁対象のイランから石油を輸入している国は、主に中国である。米国エネルギー情報局(EIA)の試算によれば、23年にイランが輸出した原油全体の約9割を、中国が最終的に輸入した。
中国は米国主導の対イラン制裁に同調しておらず、マレーシアなどを経由してイラン産原油を巧妙に輸入し続けている。米国が幾度となく発動してきた対イラン制裁の効果は限定的であり、中国が買い控えない限り、イランの石油輸出は18年の制裁発動前の水準に回復していくと予想される。
イスラエルのイラン報復への懸念
イランのエネルギー動向に関する最大の注目点は、イスラエルによる報復の有無である。仮にイスラエルがイランの石油関連施設、特にハールグ(Kharg)島にあるイラン最大規模の石油輸出港を標的とすれば、国際原油価格が高騰し、世界各国の経済に悪影響が生じる恐れがある。
11月に大統領選挙を控える米国において、燃料価格上昇に伴う急激なインフレは、バイデン大統領の後任となるハリス民主党候補の選挙運動にとって不利な状況になりかねない。また中国の場合も、イランによる中国への原油供給が滞るため、中国は代替調達先の確保を急がざるを得ない。
執筆時点でイスラエルがイランのエネルギー施設を攻撃していないものの、イスラエルの報復への懸念から、ハールグ島の石油輸出港に寄港する石油タンカー数が減少している。ロンドン拠点のメディア「イラン・インターナショナル」は、石油積出量がこの数カ月の平均出荷量の150万bpdから、10月1~10日の期間には60万bpdまで減少したと報じた。
また米通信社「ブルームバーグ」は衛星画像分析から、イランが21年にホルムズ海峡を迂回するため、インド洋側に建設したジャスク(Jask)石油輸出港で原油の積み込みが始まったと報じた。イランはホルムズ海峡の外側の、中国により近い地点で石油輸出を行うことで、中国へのエネルギー供給を維持しようと試みている。