「Kanji Cityは、予想はしていましたが日本では評価されませんでした。これは、エクササイズをしながら、直感的に漢字の意味を理解することができることを意識しました。でも、日本では、よりハイコンテクスト(深い意味、意図)が求められるのです。一方、外国で賞を受賞した際には、日本人の反応と違い、意味が分かったと言われました。日本人が日本の文化を精緻に落とし込んでも、意味までは、外国人には理解できない。だから、ローコンテクストでも理解できる表現が必要であることを改めて思い知らされました。
ただ、このところ、日本(アジア)への理解も急速に高まっていると感じています。例えば、ニューヨークではラーメン店が人気ですが、『嘘の日本』で勝負する時代は終わったと言えます。外国人相手に表層的に取り繕っていると、逆にそれを見抜かれてしまうと思います」(井口氏)
モノをつくる側からの
逆流を起こしたい
13年になって、井口さんは新たにCEKAIを設立し、ここに三上さんも参加します。井口さんには、学生時代からのコアなクリエイター仲間だけではなく、その枠を広げるとともに「モノをつくる側からの逆流」を起こしたいという思いがあったそうです。というのも、一般的には「発注者≫受注者」という力関係があるからです。
例えば、クリエイターが個人として大企業と仕事をする場合、正式な契約書を交わすなど煩雑な作業が多く、制作に集中できないということが少なくありません。CEKAIは、そうした個人のクリエイターをサポートするべく設立されました。クリエイターはCEKAIに在籍するものの、プロジェクトベースで参画するため、会社に縛られることはありません。一方で、契約などバックヤードの仕事は会社が担ってくれるのです。
「日本のクリエイター・企業がCEKAIとタッグを組めば、アメリカで仕事をすることができる。そんな次世代のためのプラットフォームになりたいと考えています。私たちの後の世代は、もっと軽やかに、肩肘張らずに外国で仕事をするということが当たり前になるはずです。才能があれば、日本だけではなく世界でも仕事ができる。そんなクリエイター・企業たちの窓口になりたいです」(井口氏)
「当初はウォール街にオフィスを構えていましたが、SOHOの大規模なオフィスに移転しました。日本とは違う意識で自分たちの存在を認識してもらう必要があると思ったので、わかりやすくSOHOのど真ん中のオフィスに移りました。仕事の進め方やスタイルは、チューニングが必要ですが、日本時代と大きくは変えません。日本でやってきたやり方で勝負しようと思っています」(三上氏)
「良くも悪くも、ニューヨークに来て感じるのは、『強い者が勝つ』ということです。だから、僕らも勝ち続けないといけない。クリエイターがリスペクトされる普通の世の中をつくりたいという気持ちは変わっていません。日本で掲げたCEKAIの旗をニューヨークでも振り続けたいと思います」(井口氏)
2人ともニューヨークでの日本人の存在感の薄さも気になっているそうです。チャイナタウンやコリアンタウンは活気があるのに、ジャパンタウンはその二つほど活気はありません。井口さんは「クリエイターの手で、本質的なLittle Tokyoをつくってみたい」と話してくれました。クリエイターにとどまらず、全ての日本人がここを起点に、全米で活躍する「場」となる日が来ることを楽しみにしています。