2024年11月23日(土)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2024年11月14日

 重要なことは旅行収支黒字の顕著な拡大は昨年3月まで水際対策をしていたことの反動だが、デジタル関連収支はあくまで自然体で増勢が続いているという違いがある。常々論じているように、日本の国際収支の未来を考えるのであれば、「増え続けるデジタル関連収支赤字、人手不足で頭打ちが見えている旅行収支黒字」という構図は懸念されてしかるべきであり、必然的にサービス収支赤字が拡大基調に入っていくことが予見される。それ自体は構造的な円安要因に違いない。

投機主導でボラティリティは拡大しやすい

 このように24年初来の数字を見る限り、経常収支構造の脆弱性に起因する「実需の円売り」は後退している印象が強い。現状を総括するならば、「実需の円売り」が後退する一方、「投機の円売り」は加速しているという構図である。

  しかし、実需の支えを欠いた円安相場は薄氷でもあり、米国経済に対する自信と共に雲散霧消しやすいことは8月初頭の大混乱で目にした通りだ。当面、円安方向に振れやすいとしても、過去2年以上続いた相場と比べると「実需の追い風」が無い分だけ安定感に欠ける一方、「投機の追い風」を受けて大きなボラティリティが出やすくなる恐れはある。

 そのような風景は実際に第二次トランプ政権が始動すれば否応なしに確認されるだろう。大統領のXの呟き1つで市場が揺れる時間帯は恐らくまたやってくる。投機で構築されたポジションはそうした材料に敏感な反応を示すはずだ。

 足許の円安つきを受けて、160円や165円といった気の早い見通しも散見されるが、そこへ到達するにしてもと「実需の円売り」を埋めるだけの大きな「投機の円売りが必要」になるというのが筆者の基本認識である。円安の背後にあるドライバーは何なのか。冷静に切り分けながら展望を練るべきである。

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