2025年2月12日(水)

脳が長持ちする会話

2024年12月5日

 これまでの脳科学の研究によって、脳の海馬が記憶を司ることは定説となっています。海馬の隣に扁桃体という感情を司る場所があり、心が動いているときこの扁桃体が活動します。扁桃体が活動したとき、同時に海馬に刺激が伝わり、記憶に刻み込まれやすくなるのです。

 何かを体験しても、心が動かなかったり、重要な情報であると認識されない場合はそのまま忘れてしまうのですが、良いにせよ悪いにせよ、その人にとって重要な情報であると体が反応した場合は、思わず覚えてしまいます。

 記憶に残そうと思わないのに、刺激が大き過ぎて消えず、何かのきっかけでよみがえってしまうPTSD(心的外傷後ストレス障害)も、この理屈で説明できます。

心を柔らかく、面白がる工夫を

 「体験を覚えておいて、誰かに話してみる」なら、面白い話のほうがエンコーディングされやすいでしょう。そこで、生活の中で次の二つを大切にしてほしいと思います。

 一つ目は、ちょっとした違和感を大切にすることです。毎日の生活が単調な繰り返しのように感じられても、「昨日とはちょっと違うこと」は何かしらあるはずです。たとえば、毎日同じ道を散歩していても、昨日咲いていなかった花が今日は咲いていたり、昨日までは気づかなかったお店を見つけたりすることはあるでしょう。「あれ?」「ん? なんだ、これは?」という発見をたくさんしようと意識していると、心は動きます。日々のさまざまなことに心が柔らかく動くような状態でいられれば、エンコードが起こりやすくなります。

 二つ目は、「自分のテーマ」を秘かに持っておくことです。私の場合は、「笑える失敗談」「意外なできごと」「小さな発見」「おいしかったもの」などがいつも頭の中にテーマとしてあります。これらのテーマに関連し、誰かに話すネタになりそうだと感じたら覚えておくように意識します。

 各テーマの話のストックが1個あればそれで良しというわけではなく、ストックをどんどん増やす方向で、かつ、ストックがなるべく新鮮であり続け、更新されていく状態をイメージしてみてください。漠然と心が動くことを探すよりも、実践しやすいと思います。

 「最近面白くない」と思っていたら、日常の経験が記憶に残るわけがありません。まずは面白がる工夫をしていきましょう。

脳が長持ちする会話
大武 美保子:著 ウェッジ
定価:1,870円(税込み)
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