2025年12月6日(土)

田部康喜のTV読本

2025年1月29日

なぜ、凋落したのか

 その後もフジテレビは視聴率で、苦汁をなめた。2014年末から翌15年新年にかけての1週間の視聴率で惨敗。ゴールデンとプライムの時間帯では、テレビ東京にも抜かれた。キー局の最低になった。

 ついに、フジテレビのプロデューサー出身である、吉野嘉高氏が『フジテレビはなぜ凋落したのか』(2016年、新潮新書)という同社の凋落を憂うる書が刊行されるまでになった。吉野氏は、フジテレビ社内だけではなく、ライバルの日本テレビの関係者にもインタビューをしてまとめている。

 「私が取材したフジテレビ社員の言葉に『フジテレビは80年代を忘れることができない』『結局バブルのあの頃に戻っていってしまう』というものがあった」

 「放送業界には、『テレビ局は新社屋を建設するとダメになる』というジンクスがある。社屋を新しくした途端、必ず不祥事や事故が起きるというこじつけのような話だ。

 フジテレビは1997年にお台場に社屋を移転した。ジンクス通りそれがきっかけで『ダメ』になったかどうかはともかく大きな転換点になったことは間違いない」

 建築家・丹下健三氏による設計の新社屋は、オフィスタワーとメディアタワーを渡り廊下で結んだ球体の展望台がある。総工費は約1350億円。

 「社員の心には、自分は『一流の人』とは違う存在だという『特権意識』あるいは『一流意識』のようなものが芽生え始めた…(東京・河田町の)旧社屋にあって、新社屋にないもの――そのひとつが『大部屋』である。

 80年代のフジテレビを覆っていた熱エネルギーの発生源であり、関係者の一体感をもたらした『大部屋』は、かつての『フジテレビ村』の中心部であったが、新社屋では解体された」

 「編成局は12階、制作局は13階というように、タテに分割された。こうして組織は分断された。一つ一つのセクションが外との接触を避けて閉じこもる。“タコツボ化”が進むおそれある社内システムができあがったのだ」

 フジテレビのプロデューサーとして、『とくダネ!』や『グレートジャニー』、『プライムニュース』などを手がけた、太田英昭氏には『フジテレビ プロデューサー血風録 楽しいだけでもテレビじゃない』(2021年、幻冬舎)がある。同氏は、フジ・メディア・ホールディングスの社長から、産経新聞の会長を務めた異色の経営者である。この著作のなかで、フジテレビの新入社員の研修で同氏が講師となって話す私家版「新人十訓」が興味深い。

 つまり、フジテレビが凋落から上昇に転じるために、社員としてどのようにすべきかを述べた訓戒と受け取れる。その一部を紹介しよう。

「一、 講義を聞く時は、講師の話が詰まらなくても頷くなどおおいにアクションし、適時にメモをとるのがマナーである(講師を勇気づける、そのくらいのサービス精神、礼儀が必要)

二、 テレビは安定期から変革期に突入している。危機の時代に生きることを覚悟せよ(映画が娯楽の王様から転落、テレビの時代に。そしてインターネットによるメディアのパワーシフトが起きる可能性がある)

三、 豊かな想像力を持って生きよ。テレビ局の社員は社会からルサンチマンの対象であり、侮蔑の対象でもあることを自覚せよ(冷めた目で見られ、時にはバカにされてもいる)

四、 テレビは弱者のライフラインである。高い倫理観、使命感を持ってテレビの役割を考えよ。テレビの存在意義は娯楽を含めて社会のためになること(経済的に、新聞を購読できない、スマホを持っていない人もいる)

五、 不条理に遭遇した時、逆行の時、良質の楽天性を持て(存在そのものを否定されることもある)…」

揺れるテレビ局の経営

 「中居問題」にかかわらず、フジテレビはメディアとしての経営の将来的な凋落の危機を抱えて、メディア以外の領域での収益の確保を図っている。これは、他のキー局の経営の課題でもある。

 フジテレビなどが傘下として入っている、フジ・メディア・ホールディングスの24年3月期の連結決算をみると、総売上高は5664億円、そのうちメディアコンテンツ事業が全体占める割合は74.5%、営業利益においては43.4%と約半分にすぎない。メディア事業に次ぐ収入源は、都市開発・観光(サンケイビル、ホテルなど)の1283億円で22.1%を占める。営業利益では全体の54.0%である。

 日本テレビが、アニメ制作のスタジオジブリを連結化したのも、メディア事業を補完するものである。TBSは、総合教育事業の「やる気スイッチグループ」を連結化。テレビ朝日は東京・有明に多目的ホールなどを擁する「東京ドリームパーク」を開業する予定である。


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