2025年2月11日(火)

田部康喜のTV読本

2025年1月29日

 電通の「日本の広告費」23年版によると、通年の広告費は約7兆3100億円。広告費全体は伸びているものの、テレビ広告は、前年比3.7%減の約1兆7000億円。対してインターネット広告は前年比7.8%増の約2兆6000億円で、総広告費に占める割合が45.5%に達している。 いまやテレビは広告の“王様”ではない。

世界的に特異なテレビ局と新聞社の関係

 最後に、日本のテレビの発展が新聞社系列よってもたらせたのは、世界的にみて特異である点について触れておきたい。その成功のカギがいま、かえってテレビの足かせになりかねない。

 戦後のテレビ局の設立にあたったのは、電通の中興の祖である吉田秀雄である。列島の各地に放送局を設立するにあたって、新聞社を中心として地元企業などの出資を仰いで、開局申請をした。実質的に電通社員がその裏方となった。

 電波メディアにおいて、戦前から独占してきたのは日本放送協会(NHK)のみであり、メディアの経験者としては新聞社を頼るしかなかった。

 しかし、米国を手本とした放送法においては、世論形成力がある新聞とテレビが一体となってメディア戦略を進めることは禁じられている。この条項を「マスメディア集中排除の原則」と呼ぶ。

 これを潜り抜けるために、新聞社も各局の相対的に少数株主となって、地元企業などと出資を仰いだのである。しかし、そのトップには、新聞社出身者が起用されることが多かった。

 読売新聞系の日本テレビ、朝日新聞系のテレビ朝日、毎日新聞系のTBS、産経新聞系のフジテレビ、日経新聞系のテレビ東京といった具合である。

 しかし、テレビの経営の凋落以上に新聞の凋落は著しい。新聞社が系列のテレビ局に役員らを“天下り”させることは、テレビ局側の抵抗が強い。

 さらに、毎日新聞が70年代に倒産して、新社旧社方式で再建を図ったときにTBS株を手放した。朝日新聞社は、社主の相続の関係で自社株をテレビ朝日に購入してもらったために、いまや新聞社が放送局の関連会社になってしまった。部数の減少が激しい産経新聞は、フジ・メディア・ホールディング傘下の新聞部門に過ぎない。

 テレビ側からみると、資本関係がある新聞社は経営の足かせとなる。“天下り”を拒否しつつ、プロパーをあてるなどの方策をとっているが、政官財との関係において新聞社は依然として力をもっており、公共の電波を使ってビジネスをしている放送局には新聞社の後ろ盾が必要なこともある。

テレビ局を“けん制”する仕組みを

 脇道にそれるが、テレビ局の監督官庁は総務省のテレビ監督部門である。それでは新聞社の監督官庁はあるのか。経済産業省のなかで、新聞社の担当は一応「紙業課」ということになっている。戦前に新聞印刷の新聞紙の配分によって、世論統制を図った名目上の担当に過ぎない。

 いまや新聞社は、新聞用紙の購入を国内に限らず、海外からも自由に買うことができる。新聞社の監督官庁はない。

 米国を中心として、公共の電波については、定期的に「電波オークション」を実施する。既存の放送局がこれによって営業を中止するわけではない。オークションに応じて国庫にカネを納めればよいのである。

 日本は、テレビや携帯電話の電波について、総務省が「配分」をする。電波政策という産業政策でもあるが、公正に電波の使用料を国庫に納めるようにすれば、テレビ局のガバナンスに対するけん制になる。

 米国では、オークションによるカネが数兆円に及ぶといわれている。日本でも一部の国会議員の間で論議はされている。電波利権の配分の権限を総務省に離させるにはかなりの力技が必要だろう。官僚の天下りと密接な関係があるからである。

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