2025年4月9日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年2月6日

 デジタルメディアが世論を形成し選挙の行方を動かすようになっている。巨大テクノロジー企業の運営者たちがトランプに屈したことで偽情報の拡散やさらなる分断が深まりつつあるが、トランプ新政権ではそうした少数の人々が膨大な力を発揮しそうである。

(NurPhoto / 寄稿者/gettyimages)

 GAFAからマイクロソフト、オープンAIと、シリコンバレーの巨大企業のトップがこぞってトランプの就任式に多額の寄付をし、参列する様子に「巨大テクノロジー企業の大物たちがトランプの前に屈従」といった記事が多くみられる。

 背景には最高裁が大統領の公式な行為に対し免責特権を認める判決を下したことで、大統領は法の上に置かれ、「事実上、市民というよりも王のような立場に」なったのが大きな要因であろう。つまりトランプは治外法権、やりたい放題ということになり、気分を損ねればいかなる報復をされるか分からないということである。

 この事態に反応した代表的な例がABC社のトランプへの賠償金支払いとMetaがファクトチェックを廃止し、さらに女性や性的アイデンティティー、移民に関する発言へのガードレールを下げたことである。

 ABCは看板キャスターの発言によって名誉を毀損されたとしたトランプに起訴されていたが、12月中旬に23億円の支払いで合意した。伝統的メディアに勝ち目があったにもかかわらず次期大統領に屈服したとみられている。Facebookの利用者は月間30億人とSNS全体の6割を占め、またMetaはFacebookの他Instagram、 WhatsAppなども運営しておりMetaの政策転換の影響の大きさがわかる。

 デジタルメディアを支配する者が選挙など政治から社会現象まで支配できるようになっているのを数字が表している。Xの利用者は4億とも6億ともいわれるが、マスクのフォロワーは2.1億、トランプは9000万である。ワシントン・ポストの調査によれば昨年7月から12月中旬の期間でマスクの発信には1330億人がアクセスしたが、これはトランプの15倍、新上下両院議員全員の発信へのアクセス合計の16倍である。

 米伝統メディアをみれば最多の購読者数を有すNYT(デジタルを含む)でも1千万、WSJは430万、WPが250万である。かなうわけはない。


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