2025年4月2日(水)

世界の記述

2025年2月14日

アメリカにとって今や香港企業は中国の企業

 トランプ大統領やルビオ国務長官は、米中間で何かが発生した場合、中国政府がハチソン・ポーツを通じて運河を閉鎖することを懸念している。もし本当にアメリカがパナマ運河を通航できなれば、経済的なダメージは深い。

 少し前であれば、米国側のそうした懸念は杞憂に終わっていたかもしれない。パナマ政府も認可当時は、イギリスのビジネス習慣を持つ香港企業と契約したと考えていたはずだ。しかし、国安法が制定されている今は、全く状況が異なる。

 香港人は2019年に刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことが可能になる逃亡犯条例に対し100万人が反対デモを起こしたように、香港人と中国人は違うと思っている。しかし、国安法下では、反中の姿勢をとれば個人であれ、法人であれ、リスクでしかない。

 今では、「自分は香港人」と表だって話す香港人も減っている。香港企業は中国政府に指示されれば、それに沿って動かざるを得ない環境下にある。

 実際、香港企業が中国政府におもねるような事象が起きている。7月1日は香港の中国返還記念日なのだが、当日の香港の新聞には、返還を記念する広告が数多く掲載されており、国安法が制定された2020年以降はその傾向が強まった。

中国返還記念日の『頭條日報』の紙面は祝賀広告がほとんど

 2024年7月1日に親中派新聞『星島日報』が発行する『頭條日報』という日刊フリーペーパーには、香港の大企業の広告がずらり掲載される。翌日の7月2日は24ページなのに対し、この日は全44ページと2倍以上となっている。祝賀広告を出すか出さないかは、一種の踏み絵に近い状況になっているのだ。CKハチソンもグループ企業と一緒に祝賀広告を出稿している。

 ルビオ国務長官は、上院議員時代の2019年に香港の民主化運動を後押しする「香港人権・民主主義法」を主導して法制化した一人で、香港の実情を把握している。香港企業は中国企業と同じであるとみなさないと、米中間で何かが起こった時にはすでに手遅れになることを恐れている。

民主化運動がパナマに影響

 今、思い返せば、2012年に習近平が中国のトップに立ち、香港への締め付けを強化し始めた。香港市民は14年に雨傘運動、トランプ政権下だった19年には逃亡犯条例での大規模デモなどで抵抗した。

 危機感を募らせた中国は翌年には国安法させることで1国2制度を形骸化させた。さらに国安法を補完する国家安全条例が24年に制定され、社会統制がより進んだ。

 米中の覇権争いの中、長年の香港市民の民主化への思いが、場所を変え、時を経て、パナマにまで波及している。こんなことを、世界の人と香港人の誰もが考えていなかった。

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