2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年2月19日

注目された成長率の高い針葉樹林

 しかし、自然保護の火の手は林業的評価の低いところから上がった。ブナを主体とする広葉樹天然林(以下ブナ林という)である。ブナは漢字で橅と書く。木で無いとひどい書かれ方だが、確かに堅くて狂いが多く扱いにくい木材である。最近でこそ乾燥技術が発達して、色目もよいのでテーブルとかの家具材やピアノの鍵盤に使われるようになったが、当時はレールの枕木とか薪炭材とかでパッとした用途はなかったのである。

 今は世界遺産になったが、白神山地(青森県・秋田県)も江戸時代には薪炭林で、あちこちに炭窯の跡が残っている。あまり伐り過ぎて水害が起こり、津軽藩が留め山(伐採禁止)にしたこともある。

写真 2 白神山地の原生的ブナ林(筆者撮影)

 世界遺産の建前は原生林ということだが、実態は再生された二次林である。だからと言って白神山地の広大なブナ林の評価が下がるわけではないので、「原生的」という言葉を使っていた。

 ブナは木材的価値が低かったので伐採による利益は薄いのだが、当時は拡大造林でイケイケどんどんだった。低価格の広葉樹林から建築用材として需要の多い針葉樹林に樹種転換して、将来的な高収入を目論んだのである。

 それと拡大造林には国有林ならではの理由があった。当時の国有林全体で成長量を上回る伐採を続けていたので、森林の持続性に問題があるとして伐採量を成長量以下に抑えるように学界から指摘され、林野庁との間で森林経理学論争が激しく交わされた。

 その時林野庁にいた気鋭の若手技官が、成長率の低い老齢過熟な広葉樹林を伐採して、成長率の高い針葉樹林に転換し、将来的に高い成長量を確保すれ問題ないと主張した。

 林野庁監修の「国有林野経営規程の解説」(1970年版)では、次のように説明されている。

 「わが国の国有林野は、奥地林が多いことから、成長量の少ない広葉樹天然林や、成長の衰えた老齢天然林が過半を占め、人工林の占める比率が低く、したがって樹種または林相の改良を積極的に行い、成長の旺盛な人工林を極力造成しなければならない地域が大部分を占めている」

 熟柿でもあるまいし、樹木・木材に過熟なんてあるとは思えないが、まあ多くの林野庁技官には言い得て妙と聞こえた。こうしてブナ林の伐採と拡大造林は、伐採量を稼ぎ、将来の成長量を確保するための重要なアイテムとなった。するとそれに関連する伐出業者、広葉樹製材所、チップ工場などが活況を示し、山村の雇用もふくらんだのである。

 そして、そこに持ち込まれたのがブナ林の伐採反対運動である。


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